演劇の性格上、長い準備期間もとれず、また参加者もボランティアで集められたものだったが、「反戦」の思いのもとに集まった演劇人たちの表現は、だんだんと話題を集めるようになっていく。
しかし、彼女の行動はこれだけにはおさまらない。ついには、アメリカ大使館および首相官邸に直接連絡するにまでいたる。そのときのことを「論座」(朝日新聞出版)03年6月号では、このように振り返っている。
「アメリカ大使館に電話をして、「初めにどこを攻撃するのか教えてください。そこの子供たちを避難させられませんか?」と聞いたのだ。馬鹿な電話だが、その時は真剣だった。「わかりません」当然の答えが返ってきた。「じゃあ、ブッシュに子供たちを避難させるように頼んで下さい」と言ったら「自分で大統領に言って下さい」と言うのである。ホワイトハウスのファックス番号を聞き、英語のできる知り合いに翻訳して貰って、すぐにファックスを送った。
小泉首相にもファックスした。うちの二十畳の稽古場に二十人のイラクの子供を避難させたい、と。寄付を募ってジャンボジェット機をチャーターし往復すれば連れてこられるのじゃないかと本気で思ったのである」
自分でも「馬鹿な電話だが」と振り返っている通り、確かに破天荒とも見なされかねない電話である。この一連の行動のなかで知り合った識者から、現在のイラクで国外逃亡をしようとすると殺される可能性もあり、そのような行動は逆効果であることを知るのだが、途方に暮れた彼女に対してある記者が言った「渡辺さんは自分の知名度を生かして、デモに行ったり、反戦活動をしたり、目立つことをやれば良いんですよ。そうすれば、もしかしたら、賛同者がいっぱいになって、止められるかも知れませんよ」(前掲「論座」)という言葉が、挫折しかけた渡辺の心に火をつける。
その結果、次はどんな行動をとったのか? 「創」(創出版)03年5月号ではこのように語っている。
「実は今朝(3月19日)、首相官邸に行って来たんですよ。アポをとる時間がなかったので、首相に直接手渡すつもりで朝10時に、戦争反対、小泉内閣不支持という、斉藤憐さんが書いた緊急レポートを持っていったんです。新聞によると首相は安倍官房副長官と会う予定になっていたので、車で通りかかった時に渡そうと思ったんですね。でも官邸の護衛にあたってる人たちもいい人と難しい人がいるようで、「法律で決められている。これ以上入ったら逮捕せざるを得ない」と言われてしまいました。それこそ武力行使だと言われましたね。
その時に一瞬私は、むしろ逮捕されたほうがニュースになっていいかもしれないと思ったんですよ」
この件に関しては、前掲「論座」でもこのように語っている。
「政治活動大嫌い。演劇は心を豊かにする遊び。目立つことも大嫌い。売名行為、絶対嫌。こういう私が、記者の一言で変わったのだった。ジャーナリストの緊急集会に参加したり、首相官邸にアポ無しで出掛けたのも、逮捕されれば記事になるかもしれないと思ったからだった。自分の体を利用して何でもやれることはやりたいと心から思ったのだった」