『性と国家』(河出書房新社)
韓国・釜山の総領事館前に慰安婦問題を象徴する少女像が市民団体によって設置され、日本政府が駐韓大使の一時引き上げや日韓通貨スワップ協議の中断などの対抗措置を強行した件は、あらためて安倍首相の「お詫びと反省」とやらが口からでまかせであったかを浮き上がらせた。
2015年の日韓合意の際、岸田文雄外務大臣は「安倍晋三首相は日本国の首相として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に心からおわびと反省の気持ちを表明する」と語った。ほんとうに慰安婦とされた女性たちに負わせた心身の苦痛を思えば、少女像の設置にここまでヒステリックな反応などできるはずがない。
しかし、既報の通り、この安倍政権による異常な対抗措置に、テレビのコメンテーターたちは「当然のこと」「韓国はけしからん」「日韓合意を守れ」と大合唱を繰り広げたのだ。その様子は「慰安婦問題は10億円を引き換えに、もう決着がついた話」と言わんばかりだった。
だが、「慰安婦」問題はけっして歴史や政治だけの問題ではない。昨年11月に発売された佐藤優氏と北原みのり氏の対談集『性と国家』(河出書房新社)において、佐藤氏は「慰安婦」問題をこのように述べている。
「今、現に生きている「慰安婦」たちが説いているのは歴史問題じゃないんですよ。今ここでの日本人の姿勢を問われているわけだし、今ここでの日本の男の姿勢も問われているわけだし、程度の違いはあれど、韓国の男の姿勢も問われている。すべて共時的にね」
佐藤氏は日本軍による「慰安婦」問題について、アメリカでは「いわば生理的嫌悪をもたらす問題として受け止められた」という。「それは歴史問題ではなく、今この場で自分の妹が慰安所に連れて行かれたらどうなのか、自分の娘が連れて行かれたらどうなのかという問題として受け止められるから」だ。他方、日本では慰安婦問題を「戦時中のこと」として受け止め、さらには「女の自由意志だ」「強制ではない仕事だ」などというとんでもない言説まで飛び出している。
この対談でも、北原氏が“なぜ男性はそうした免罪符を欲しがるのか”と疑問を呈するが、それに対して佐藤氏は、田中克彦・一橋大学名誉教授が2014年に出版した『従軍慰安婦と靖国神社』(KADOKAWA)を例に、「(同書に)書かれていること、あれが男の感覚なんじゃないですか。戦場の性の処理は必要なんだという立場で、それならば「お国のための慰安婦たちだった」となる」と話す。