子どもたちの甲状腺がんが大幅に増え続けている以上、検診や治療体制の拡充を早急に図るべきだと考えるが、なぜかそれに逆行する“検査の縮小”が叫ばれ画策されていったのだ。
こうした動きについて昨年、甲状腺がんの発生率は通常の50倍にもなり、今後もその増加は避けられないと、政府や医学界を批判した環境疫学の専門家である津田敏秀・岡山大学大学院教授もこう警告している。
「福島県ならびにその周辺の自治体では、甲状腺がんが桁外れに多発しています。そして、それは事故による影響でしか考えられない著しい多発です。過剰診断もスクリーニング効果も、チェルノブイリ周辺地域の同年齢程度の低曝露人口集団で行われた検診によりすでに否定されています。もし、この多発が事故による多発でなく、過剰診断やスクリーニング効果だとしたら、チェルノブイリ周辺地域での甲状腺がんの多発も事故による影響でなくなります。すでに、2巡目も桁違いの多発です。2巡目の多発は過剰診断もスクリーニング効果も意味をなしません。過剰診断もスクリーニング効果も、医学的根拠は一切示されていません。むしろ既存の医学的根拠に反します」
また甲状腺患者が作る「311甲状腺がん家族の会」や、様々な団体が異議を表明。9月に行われた県民健康調査検討委員会でも、多くの委員から「縮小」はあり得ないとの発言が相次いだほどだ。
ところが、こうした“縮小阻止”の動きに対して巻き返しが起こる。それが9月に開催された、笹川陽平・日本財団会長主催の国際専門家会議「福島における甲状腺課題の解決に向けて〜チェルノブイリ 30 周年の教訓を福島原発事故5年に活かす」だった。
この会議には事故後、「100ミリシーベルトは大丈夫」「ニコニコ笑っている人には放射線の害は来ません」「福島県は世界最大の実験場」などトンデモ発言を繰り返す“縮小”派の代表格である山下俊一・長崎大学副学長も出席していたが、“縮小”派は科学的根拠をほとんど示さないまま曖昧な議論に終始した。
さらに、議論は日本側の思惑とは真逆なものでもあった。たとえばベラルーシから呼ばれた専門家ヴァレンティナ・ドロッツ氏は「早期診断が非常に重要」と指摘し、ロシア国立医学放射線研究センターのヴィクトル・イワノフ氏も「福島でも、今後10年20年以上データを取り続ける必要がある」などと発言、 “縮小”を提言できるとは到底思えない結果となった。