宮内庁「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」より
「まるで安倍官邸が『天皇封じ込め』のために、刺客を送り込んだような人事だ……」
こうつぶやいたのは、元宮内庁詰めのベテラン記者。宮内庁は9月23日、風岡典之長官が26日付で退任し、山本信一郎次長が長官に昇格、後任の次長に内閣危機管理監だった西村泰彦氏(第90代警視総監)を充てる人事を発表した。宮内庁長官は通常、70歳の節目に交代し、次長が昇格する。風岡氏は今月70歳を迎えたのでその意味では通例通りのようにも見えるが、先のベテラン記者はそうではないと言う。
「通例という意味では、宮内庁幹部の異動は春に行われるというのが通例です。風岡さんも来年3月までは長官を務められると誰もが思っていた。この人事はどう見ても異常です。西村さんの次長就任も極めて異例で、警察官僚が就くのは22年ぶり。次長はまさしく『次』の宮内庁長官ですから、事務次官経験者がどこかの省の顧問などを務めてから就任するのが普通です。官邸のバリバリの危機管理監から直に宮内庁入りというのは聞いたことがない。生臭すぎる」
生臭いどころではない。これは明らかに安倍官邸による「生前退位」問題への“報復人事”だった。その辺の事情をズバリ書いたのは、9月25日付の時事通信だ。風岡長官の退任が早まった理由について、「お気持ち表明に関し、誰かが落とし前をつけないと駄目だ」という政府関係者のコメントを紹介していた。
たしかに、今年7月、NHKが天皇の「生前退位の意向」をスッパ抜いた際、官邸はこの動きを事前にまったく知らされておらず、「宮内庁の幹部のリーク以外にありえない、いきなり報道でぶつけてくるとは何事か」と激怒していた。その後、天皇自身による「お気持ち」の表明があった後も、官邸周辺からは「(宮内庁は)陛下が思いとどまるよう動くべきだった」(時事通信)、「宮内庁が政府の一員として動いているかどうか分からないところがある」(朝日新聞)といった声が上がるようになっていた。
しかし、この間の生前退位をめぐる官邸と宮内庁の舞台裏を取材してみると、これは完全に八つ当たりとしか思えない。怠慢なのはむしろ安倍官邸のほうだからだ。
実は、天皇は2010年頃から生前退位の意向を口にしており、宮内庁も2014年頃に官邸に非公式で生前退位の検討を要請していた。しかし、安倍官邸はこのとき要請に取り合わず、握り潰してしまっていたのだ。