周知のように、このAV強要問題については、強要を告発する証言の一方で、複数のAV女優たちから否定的な意見が寄せられていた。たとえば、人気AV女優の紗倉まなや天使もえ、元AV女優の蒼井そら、やはりAV女優出身で作家の川奈まり子らも一斉に「報告書は今のAV業界の現実とかけ離れている」「過去の話で、今はもう強制や騙しなんてほとんどない」と反発の声をあげた。
しかし、今回の『クローズアップ現代+』では、こうした声は一切取り上げられず、被害者の声や、悪質なプロダクションの存在だけがひたすらクローズアップされることになった。
もちろん、強要に否定的な女優のほとんどは、自ら進んでAVの世界に入った人気女優であり、業界の一番過酷な実態を知らない、という声もある。しかし、これだけ多くの声が寄せられている以上、VTRで悪質な業者による脅迫や洗脳の手口を紹介するだけでなく、やはりスタジオには強要に否定的なAV業界関係者も呼んで反論の機会を与える必要はあったのではないか。
だが、スタジオにいたのは、NHKの記者と、今年3月に「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書」を発表し、AV出演強要問題に火をつけた国際人権NGO団体ヒューマンライツ・ナウ事務局長で弁護士の伊藤和子氏、そして、セックスワーカーに関する問題に取り組み続けている一般社団法人ホワイトハンズ代表理事・坂爪真吾氏だけだった。
坂爪氏は一応、AV業界に理解を示す立場をとっていたが、ほとんど発言の時間が与えられず、放送終了数秒前にこのような言葉を残すのが精一杯だった。
「いま契約書を統一してですね、出演時に基準をつくってですね、強要が起こらないようにしようという動きは起こっています」
ここで坂爪氏が言おうとしていたのは、今月11日に、前述の川奈まり子氏が立ち上げた、プロダクションやメーカーも巻き込んだ出演者のための業界内部の団体「表現者ネットワーク(AVAN)」のこと。この団体では、業界で統一の契約書をつくり、騙して誓約書にサインさせるといった手口が使えないように働きかけていく予定だ。坂爪氏は、AV業界内部でもこういった動きで出演強要の問題を解決しようとしていると説明しようとしていたのだが、時間がまったくないなかでそのことを理解できた一般視聴者はおそらくほとんどいなかっただろう。
放送終了後、坂爪氏はツイッターに、悔恨と反省を込めて以下のように綴っていた。
〈統一契約書の話はギリギリねじ込めましたが、AV業界がVTRに出てくるような極悪人だらけの世界ではない、ということは時間が無くて話せず。業界関係者の皆様、申し訳ございません。。。〉
実際、スタジオでの討論は強要を告発、批判したVTRの内容を補強する意見がほとんどをしめ、伊藤弁護士の以下のような主張が一番説得力をもって語られた。