一方、「新潮」の記者は年齢、性別は書いていないが、かなり心細そうだ。
〈少年が“置き去り”にされた午後5時過ぎ、薄暮の森を1人歩いて行くと、耳に入るのは、野鳥の鳴き声と沢の音。砂利道を踏むザクザクという音が辺りにこだまする。頭上を旋回する鳶。一体何を狙っているんだろう。さっき頭をかすめた巨大なカラスが、向こうの木に止まって思案気にこちらを見ているではないか。辺りはどんどん暗くなる〉
普段、修羅場を経験している週刊誌記者とは思えないビビりぶりだが、やはり都会で政治家や芸能人を相手にしているのとはわけが違うのだろう。
しかも、このふたりの記者をさらにビビらせたのが、「熊が出る」という地元の人の警告だった。「文春」記者はこう綴っている。
〈緊張したのはけもの道を歩いた時だ。草木を避けながら進む記者の前をふとキツネが横切り、「ヒグマが出る恐れもある」という地元の人の話を思い出してしまう〉
「新潮」記者は、猟師からもっと生々しい話を聞いていたためか、もっとビビりまくりである。
〈ふと地元の猟師の言葉を思い出した。「あの辺は熊の密集地だ。今は腹が減ってイライラしてるしな」
(中略)
「20年くらい前かな。あの近くの山で7歳の女の子が迷子になった。半年後に骨になって見つかったけど、その横のジャンパーには熊が裂いた痕がついていたな」
時折、森から枝の折れるような音が聞こえてその度ドキッとする〉
幸いどちらの記者も熊には出会わなかったようだが、今度はふたりに、歩きづらさ、体力の低下が襲いかかる。〈足元は細かい砂利から石ころへ。危うく足を取られそうになる〉とぼやく「新潮」記者、〈草や土に足をとられ、体力がどんどん消耗していく〉と弱音を吐く「文春」記者。