何とも切ない、そして切実な行為だ。だが人工授精でも妊娠しない。そして体外受精──。これはいろんな意味で格段に負担がかかる。
〈(女性は)排卵誘発剤の投与や麻酔を使っての採卵など、からだへの負担が増える。そして1打席50万円という高額な費用。年3回までの施術代なら国が割り引いてくれるとはいえ、50万円である。しかしお金はなんとかなるとしても、意外と一番きついのが通院だろう。いざ施術の段階になると、1週間に4〜5回も通院しなければならず、これはなかなかである〉
また自宅で自ら注射を打つことも。こうして始まった“本格的治療”だが、思うような結果が出なければ妻の心身ともの負担はどんどん大きくなる。その姿に一緒に涙する村橋氏。
〈こんな辛い思いをりえにさせるなら、もういますぐにでも治療をやめようと思った。いますぐやめて、明日の何時に来い、明後日の何時に来いというクリニックを蹴飛ばして、ゆっくり旅行にでもいこう。禁止されている自転車に乗って、気の向くままにお出かけしよう。治療をはじめる前の、いつもくだらない冗談で笑い合っていた僕とりえに戻ろう〉
しかし、そんな思いをぐっと抑える村橋氏。そして様々な葛藤を繰り返しながら、治療の詳細と夫の揺れ動く心、そして夫婦の絆が描かれていく。そんな村橋夫妻の“奮闘”の結果は──是非それは本書を読んでほしいが、本書では他にも不妊治療を経験した男性101人の妊活のホンネ、例えば夫婦関係の変化や子どもをもつことへの思い、両親など家族の問題が治療歴とともに記されている。
以前に比べて不妊治療への理解は多少深まったとはいえ、未だに社会や会社、そして家族の無知、偏見という側面は否めない。さらに周囲から妻へのプレッシャー、自分の精子が問題なことを隠そうとする夫。とくに女性側には負担が大きいだけに心身ともに様々な問題や葛藤もある。そして経済的負担も。
もちろん夫婦によって、考え方やその関係性はさまざまだろう。しかし不妊治療は決して女性だけのものではない。多くの男性がその経験を語ることは、これから不妊治療をしようと悩む人々にとって情報の面でも、夫婦関係を考える上でも有益だろう。
(林グンマ)
最終更新:2016.06.08 07:04