キャサリン・ジェーン・フィッシャー『涙のあとは乾く』(講談社)
沖縄の怒り、悲しみが、この人たちにははたして届いているのだろうか。沖縄県うるま市の米軍属の男による女性死体遺棄事件について、5月25日に開かれた安倍首相との共同会見でオバマ大統領は「再発防止にできることはすべてやる」と述べたものの謝罪はなし。安倍首相もオバマ大統領に対して日米地位協定の改定を求めることはなかった。
今回の事件、いや、過去これまでの沖縄で一般人を被害者にした米軍によるあらゆる事件は、基地がなければ発生していないものだ。とくに女性に対する性犯罪は、どれだけ日本政府や米軍が再発防止の対策を講じると言っても、ずっと繰り返し起こり続けている。
しかも問題なのは、米軍関係者が犯罪を犯しても、日米地位協定によって日本側の捜査や裁判権が制限されていることだ。1995年に沖縄で小学生の女児が複数の米兵に拉致・暴行された事件では、この日米地位協定を盾に米軍は日本側への容疑者の身柄引き渡しを拒否。同年、米軍は起訴前の容疑者身柄引き渡しを「好意的配慮を払う」としたが、2002年に発生した米兵による女性暴行未遂事件では沖縄県警の身柄引き渡し要請を拒否している。
日米地位協定がいかに不平等で、米軍の犯罪に巻きこまれた人はどれほど理不尽な扱いを受けるのか。そのことを深く痛感させられる一冊の本がある。著者は、キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん。彼女は、横須賀で米兵にレイプされた性犯罪の被害者だ。
〈自分の権利を守るために立ち上がるのは勇気のいることだ。だが、わたしは尊厳のために立ち上がる。もう、声を上げることを怖がったりしない。これはわたしの物語だ〉
手記として昨年発売された『涙のあとは乾く』(講談社)によると、オーストラリア人のキャサリンさんは、1980年に家族とともに来日。英会話教師として生活を送っていた02年、恋人と待ち合わせた横須賀のバーで薬を飲み物に混ぜられ、朦朧状態になった後に、海軍航空母艦キティホーク乗組員の米兵に強姦された。
本書では、彼女はそのとき何が起こったかを絞り出すように綴っている。それはすべての性犯罪がそうであるように、あまりにむごく、想像を絶する恐怖だ。きっと彼女はその文章を書く最中にも何度も苦痛を味わったであろうことを思うと、たまらなく苦しくなる。