その「ユーモア」精神が最も突き抜けていたのが、タイマーズの「原発賛成音頭」であろう。この曲は、原発反対のメッセージを出してトラブルに巻き込まれたことを逆手に取り、あえて原発賛成と歌ったものだった。
〈さあさ皆さん聴いとくれゲンパツ賛成音頭だよ/これなら問題ないだろーみんな大好き原子力/ゲンパツ賛成! ゲンパツ賛成!/うれしいゲンパツ楽しいな日本のゲンパツ世界一/なんにも危険はございませんみんな仲間だ原子力〉
ライブではこのような歌詞を完全にバカにしきった歌い方で歌われ、〈一家に一台、原子力〉という一節まで登場する。そして観客は音頭調に合わせ笑いながら〈ゲンパツ賛成! ゲンパツ賛成!〉と歌う。〈自衛隊に入ろう入ろう入ろう/自衛隊に入ればこの世は天国/男の中の男はみんな/自衛隊に入って花と散る〉と歌った高田渡「自衛隊に入ろう」にも通ずる諧謔的な表現手法である。
彼の死後に起きた東日本大震災では福島第一原発が放射能事故を起こし、また、そんな大事故が起きたのにも関わらず、その反省を活かそうともせずこの国は原発再稼働へと急速に歩みを進めている。
また、昨年は、十分な議論もなされないまま安保法案が強行可決され、憲法9条の存在すら危ういものとなり始めている。天国の清志郎が見たら、さぞや嘆き悲しむであろう状況に我々はいる。
そして、おそらく、私たちが彼ほどの過激な行動をとり続けることは無理だろう。どんな圧力を受けても、決して自分のメッセージを曲げなかった清志郎のような強さを持ち続けることも常人には難しい。
しかし、それでも、忌野清志郎のことを思い出し、彼の言葉にふれたら、少しだけ勇気がわいてくる。明日は憲法記念日、清志郎はこんなメッセージも残している。
〈この国の憲法第9条はまるでジョン・レノンの考え方みたいじゃないか? 戦争を放棄して世界の平和のためにがんばるって言っているんだぜ。俺たちはジョン・レノンみたいじゃないか。戦争はやめよう。平和に生きよう。そしてみんな平等に暮らそう。きっと幸せになれるよ〉(『瀕死の双六問屋』/小学館)
(新田 樹)
最終更新:2016.05.02 12:03