言わずもがな、安倍首相の「怨念」は「戦後レジーム」という言葉に集約されるが、橋下氏にとっては何か。内田氏はこう分析する。
「個人史的な事情が絡んでいるのかもしれないけれど、橋下徹さんは基本的にアンチパターナリズムです。建前できれいごとを言う人が嫌いなんです。それは「父親的なもの」に対する嫌悪だと思います。だから、政治家、知識人、教師、法曹、役人がまっさきに罵倒された」
しかも、橋下氏が取ったのは、「権威に向かって下から異議申し立てをするという常套手段ではなく、自分自身が「父親的なもの」のさらにその上に立って、上から踏みつぶすというユニークな手段」だった。つまり、「みんなが「ありがたがるもの」をまず手に入れて、それに向かって唾を吐きかけてみせる」。この劇場型ともいえる手段こそが“橋下人気”を支えたのだ。
信じられない嘘をつかれてフリーズしてしまうジャーナリストたちも不甲斐ないが、橋下氏の「怨念」政治を受け入れ、許してしまったのは市民も同じだ。実際、内田氏は大学のゼミ生に橋下氏の評価について尋ねたところ、「いいと思う」との意見が返ってきたという。その理由は、「言うことが支離滅裂で、感情的で、すぐむきになったりするところが隣のお兄ちゃんみたいな気がする。親しみが持てる」というものだ。
政治家には知性が求められるはずなのに、それとは反する部分を「親しみ」に感じてしまう。このように「自分たちを統治する人間に特段の教養も見識も人格も求めないという人心の変化」こそが、嘘つきの総理を誕生させ、橋下氏を権力の座へと上げてしまったのだ。
橋下氏は先月の特番で、何度も「(自分は)民間人」だと強調していた。だが、おおさか維新の会との密着ぶりを考えれば、これも大きな嘘だし、保育園問題でもいまは耳障りのいいことを主張しているが、市長時代は保育士の給与を引き下げるプランを打ち出した張本人だった。こんなふうに今晩からのレギュラー番組でも、橋下氏は何食わぬ顔をして嘘をつきつづけるのかもしれないが、安倍首相ともども、もうこんな二枚舌の権力者を生み出さないためにも、視聴者は騙されないよう、くれぐれも注意してほしい。
(水井多賀子)
最終更新:2017.11.24 09:54