小酒部さやか『マタハラ問題』(ちくま新書)
「保育園落ちた」ブログに対する安倍首相や自民党の反応は、彼らがいかに待機児童や子育て問題に無理解であることかを明らかにしたといえよう。ああいう姿勢で、いくら「一億総活躍社会」などというスローガンを叫んでも、女性の社会進出や少子化問題が解決できるはずがない。
実際、保育園問題以外にも、この国では、女性の妊娠・出産を阻害するようなさまざまな問題が解決されることなく放置されている。そのひとつが妊婦に対するハラスメント、いわゆる“マタハラ”だ。
『マタハラ問題』(小酒部さやか/ちくま新書)では、働く女性を襲うマタハラの実態が赤裸々に描かれている。特に衝撃なのは著者の小酒部氏自身のマタハラ体験だ。
厚生労働省が発行する子育てサポート企業の認定マーク“くるみん”を取得している会社で雑誌ディレクションの仕事に契約社員として従事していた著者だったが、35歳を過ぎた頃妊娠が判明する。だがほどなく流産してしまった。
流産は女性にとってナーバスになる問題だ。しかし入院、手術などで1週間ほど会社を休んだため、診断書を会社に提出する必要もあり、退院後男性上司にそれを報告するしかない。同時に1人で担当していたプロジェクトにアシスタントを付けて欲しいと要望したが、上司の答えはその要望に答えるものではなかった。
「あと2〜3年は、妊娠なんて考えなくていいんじゃないの?」「今は仕事が忙しいんだし……」
啞然とした著者だが、しかしその後も激務は続きアシスタントは付けられることもなかった。そして半年後、再び妊娠したが切迫流産と診断される。そのため自宅安静を上司に伝えたが、上司からは業務に関する電話が毎日かかってきたという。少しでも電話にでないと、語気を荒げて怒鳴られる。家事も出来ず絶対安静の状態にもかかわらずだ。さらに上司は今後のことを話し合いたいと自宅まで押し掛け、そこで酒を要求したうえで退職を要求してきたのだ。
「(お前は仕事が)できるわけ、なのに会社にわざわざ悪いイメージ与えて、会社からしてみるとわがままだと、まわりの仲間とか同僚のことも考えてみろと、少なくとも気を使うわけじゃん。まずは俺が気を使うもん」