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大ヒットした『春画展』になぜ女性来場者が殺到したのか? 春画が女性を惹きつける理由を上野千鶴子と田中優子が分析

田中「私は「性関係の風景画」あるいは「二人のユートピアの風景画」という言い方をしたこともありますが、特に女性が見たときにそういう印象を持つものが品格がある、と思える。自分のなかにある対幻想のユートピア的なものが刺激されるということですね。性感覚を刺激されるという人もいるかもしれない。
 春画はポルノグラフィと違いますから、必ず男女がいます。もちろん、男と男という場合もありますが。そこに描かれているのは二人の世界なんです。二人の世界の風景画として見たときに、それぞれの人が自分の経験のなかにある二人の世界を想い起す。描かれたものと個々人の経験とがきちんとつながったときに、いい絵だと思えると思うんですね」

「春画」を触媒にして、自分自身の経験や、それに基づいた想像を巡らせることができる。「春画」にはそのような力がある。田中氏はこんなことも語っている。

田中「喜多川歌麿の『歌まくら』に河童に犯されている女性の画があります。水面下に河童と女性、そのそばの石の上に女性が描かれている。あれは、二人の女性ではなくて、石の上の女性の想像や欲望が水面下に投影されている。こういう春画をみて楽しむというのは女性だけなのかもしれませんね。女性はこの春画を見て自分の快楽の一部を思い出す。そういう連想ができる。別にタコや河童だからというわけではなく、表情や身体の表現からそれを連想するわけです」

 女性たちが絵を見ながら、こうして「性」をめぐる連想ができるのは、「春画」が女性の快楽を肯定しているからに他ならない。

上野「春画には女の快楽がきちんと描かれています。『喜能会之故真通』でも快楽はタコの側ではなく女の側に属している。もうすこし込み入った分析をしていくと、「快楽による支配」が究極の女の支配だと言うこともできますが、快楽が女に属するものであり、女が性行為から快楽を味わうということが少しも疑われていない。この少しも疑われていないということが他の海外のポルノと全然違うところなんです。能面のような顔をした、男の道具になっているとしか思えないようなインドや中国のポルノとは違う」

「春画」のなかでは、女性にとっての性の快楽がきちんと描かれている。これは西洋の人々にとって衝撃的であったようだ。前掲「ユリイカ」のなかで、浮世絵に詳しい美術史学者の小林忠氏は、『春画展』を開いた大英博物館の学芸員であるティモシー・クラーク氏より受けた指摘からこんなことを語っている。

「ティモシー・クラークさんが、たいへん多くの批評家が取り上げてくれたのだけれど、そのなかで辛口で有名な女性の批評家が日本の春画はよろしいと言ったというんですね。女性が性に喜びを得ているところがなかなかいい、男性が一方的に支配するような西洋のポルノグラフィとは異なるところがある、という批評を書いてくれたそうなんです。たしかに女性の恍惚とした表情が印象的です」

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