このようなマシンが開発されるにいたるのも、ユーザーを満足させられるよう試行錯誤を繰り返す日本のAV業界ならではのことであった。前掲書でインタビューに応じているAV監督のミネックJr.はこう語っている。
「僕がマシンを使うのは、男優が写り込まずに、どうやったらスクリーンの全部が女優だけの映像にできるかってことなんですよ。(中略)人間の手の長さでバイブを使うと、どうしても腕とか肩とかが写ってしまう。自分が男優ですから、結果として男優ごしに女優が写ることになる。それ、すごく嫌なんですよ。手だけ写っても納得できないです。100%、男優を消したいんで」
自分と女優が二人っきりでいるような世界を疑似体験したいというユーザーは多い。特に、若い世代にその傾向が強いのだが、そのニーズに応えるため、日本のAV製作者たちは大掛かりなピストンマシンまでつくりだしたのである。
こういった、ハードコア表現が不可能であるが故になされた試行錯誤は、AVというジャンルが表現し得る世界をどんどん広げていく。
その極めつけとも言えるものが、いわゆる「ナンパもの」と呼ばれる作品だ。
地球上ありとあらゆる場所を旅し、そこでのセックスをドキュメンタリーとして作品にしていく流れは日本のAV史において脈々と受け継がれている。
そのなかでも最も衝撃的なのが、柴原光が監督した『無防備都市ナンパ戒厳令』である。この作品は、なんと、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の激戦地まで赴き、その現地でナンパビデオを撮影しようという企画なのだ。なぜこんな無茶な計画が立ち上がったのか? 柴原はこう語る。
「当時、キューバとかロシアで撮ったナンパAVが発売されていて、俺たちもどっか行かなきゃなって雰囲気はあったんだよね。そいつらを超えなきゃならないって。94年に『サラエボ旅行案内 史上初の戦場都市ガイド』(三修社)っていう戦地をガイドブック風に紹介するパロディ本が出たんですよ。それ読んで大真面目に旅行してみようって発想からスタートしたの」
「なんで戦争しているのかってバックグラウンドをほとんど調べないで行っちゃったんで、クロアチアのホテルに着いて向こうの人に戦況を説明されて、あ、そういうことなんだって初めて知ったという(苦笑)。知らなかったから行けたんで、普通、この国は絶対に行っちゃいけないって思うよね」
政治的な主義主張などは微塵もない、あるのは、AVというフォーマットが表現できるキャパシティーをどれだけ広げられるかという、性的・芸術的な探求心だけであった。
この不謹慎とも思える旅はすったもんだの末、ついに戦火の中心地にまでいたる。首都ザグレブに向かう道中のカメラには、ボディに「UN」と書かれた巨大な車両や難民キャンプが映し出され、戦争の禍々しさが記録されていた。確認しておくが、一応この作品は「アダルトビデオ」である。