稲田朋美HPより
日本には、“戸籍のない人”が推計1万人以上いることをご存知だろうか。法務省の実態調査では、今年6月の時点で全国で626人の“無戸籍者”が確認されているが、調査に回答していない自治体が大半であり、その数字は氷山の一角だと見られている。
ルポ『戸籍のない日本人』(秋山千佳/双葉新書)によれば、日本には毎年少なくとも500人以上の戸籍のない子どもが生まれているという。本書は、元社会部新聞記者である著者が8年間の取材をもとに書き上げたルポルタージュであるが、これを読むと、日本に無戸籍者が生まれる法律上の欠陥、そして、是正に反対する政治家たちの“歪んだ思想”がみえてくる。
そもそも、多くの日本人にとって戸籍は、生まれながらにして当たり前にあるという認識だろう。一般的に、個人の戸籍は出生届ともに作成され、本籍などが記載される。だが“戸籍がない”と、原則として住民票が作成されず、本人確認をすることができない。ゆえに、運転免許証はもちろん、パスポートもつくれないので海外にも行けないし、結婚にも支障が生じる。より身近な例だと、レンタルビデオやネットカフェの会員証をつくることすらできないのだ。
また、子どもの場合、乳幼児健診や予防接種などの通知も受けられない。無戸籍の子どものなかには、健康保険証がなかったり、義務教育を受けられなかった子もいるという。さらに、こうした目に見える弊害だけでなく、社会との接点が薄くなり、通常のような社会性が育まれないこと、偏見にさらされることにもつながると著者は指摘している。
無戸籍者の人々には、出生届が提出されていないという共通項がある。では、なぜ親は役所へ届け出ないのか? 背景には、DVや離婚・再婚の増加がある。たとえば、夫からの暴力で命の危険を感じて逃げ出し、居場所を知られたくないため離婚が難航している女性が、新たなパートナーとの間に子どもをもうけた場合。子どもの出生届を出そうとすると、自動的に「夫の子」と推定され、夫の戸籍に入ることになってしまう。そうすれば、戸籍謄本により、夫に居場所や出産を知られてしまうため、報復などを恐れて出生届が出せない。こういうケースは決して珍しいことではないのだ。