そんなケント氏がなぜ、露骨なネトウヨ的主張を口にし始めたのか。きっかけは、昨年の朝日新聞の従軍慰安婦をめぐる誤報問題だった。
誤報問題が盛り上がっている最中の2014年8月22日、ケント氏は、「朝日新聞へのアドバイス」というこんな投稿をエントリーする。
〈ところで私も「従軍慰安婦問題はあったのだ!」と先日まで信じ込んでいましたから、朝日新聞に完全に騙された人間の一人です。だから朝日新聞は私にも謝罪して欲しいです。保守系の友人たちは「従軍慰安婦問題なんて無かったんですよ!」と何度か私に教えてくれました。しかし私は全く聞く耳を持たなかったので、彼らは密かに私を馬鹿にしていたかも知れませんし、彼らの信用を失ったかも知れません。そのことを考えると精神的苦痛を感じるから、朝日新聞に対しては損害賠償を請求したいくらいです。〉
すると、このブログが大きな反響を呼ぶ。それまでのエントリーではコメントが1〜3件、「いいね!」がせいぜい30くらいだったのが、現時点で「コメント88、「いいね!」が1386も集まる反響の大きさとなったのだ。
そして、ケント氏はこれを機に、それまでまったく政治的な問題を扱っていなかったブログで、右派やネトウヨが喜びそうな主張を3~4日に1回ほど書き始める。しかも、その回数も主張もどんどんエスカレートしていった。慰安婦否定、ネトウヨデモの支持、韓国攻撃、憲法9条否定、君が代称賛……。在米ジャーナリストのマイケル・ヨン氏が慰安婦否定の論文を書いていると知るや、ブログでその和訳を公開。これまたネトウヨから絶賛を浴びた。
さらに、新聞や雑誌からもオファーがかかるようになった。9月には「夕刊フジ」で同内容の朝日新聞批判を寄稿し、11月からは同紙で連載を開始。翌年には「正論」2月号で「韓国よ、あなたがたの父祖はそんなに臆病だったのですか」という韓国ヘイト的論文で右派論壇デビュー。その後、「Voice」(PHP研究所)、「WiLL」(ワック)といった右派論壇誌から引っ張りだこになっていく。
まさに、朝日の従軍慰安婦誤報問題を境に、ケント氏は一気に、ネトウヨ文化人の第一線に躍り出てきたのだ。
だが、それは、朝日問題をきっかけにケント氏がリベラルに失望し、思想を180度転向させたというような、ピュアな話ではないだろう。
前回の記事でも書いたが、吉田証言の信ぴょう性のなさは前々からいわれていたことであり、それを今更誤報だと朝日が認めたからといって、従軍慰安婦そのものが否定されるわけではない。しかも、戦争への認識から憲法観、韓国に対する姿勢までが180度ひっくり返るというのは、どう考えても整合性がない。少なくとも、ケント氏はそこまでバカではないはずだ。
むしろ、この間のケント氏の言動を見ていると、その転向の裏に感じるのは、マーケティング的なにおいだ。
ケント氏は「夕刊フジ」や「正論」などで、自分のブログがいかに大きな反響を呼んだかをとにかくうれしそうに強調していた。