しかし当初、この結婚には心配の声もあった。というのも、イタリアは家族・親族の結びつきを重んじる文化で知られる。前夫・紀里谷和明との離婚理由について「彼の理想は(公私ともに)一体化することで、でも私はそうじゃなかった」と語るなどベタベタした家族関係から距離をとろうとする宇多田が、イタリアの濃密な家族関係に耐えることができるのか、と。実際、結婚式でも、宇多田が厳戒態勢をとるなか、家族同然に祝おうと村中の住民がつめかけるという騒動が起きていた。
だが、逆に、その結びつきの強い家族のなかに入るということが、宇多田にとって良い方向に動いたようだ。
そもそもイタリアの家族の結びつきとはどれほど強いものなのか? 宇多田と同じくイタリア人男性と結婚した、『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)などで知られる漫画家のヤマザキマリは、「女性自身」(光文社)14年2月25日号で、その家庭の雰囲気についてこう語っている。
〈イタリア人男性は母親と一心同体です。
彼らと結婚するということは、そのお母さん“マンマ”との非常に密接な家族付き合いをするということです。
マンマはお嫁さんのことは“大好きな息子が愛した人だから”と、何かと気にかけてくれます。
よい言い方をすればかわいがってくれる、悪い言い方だと、ことあるごとに干渉してくるのです(笑)。
マンマと息子だけではなく、ほかの家族関係の結びつきも強く、お父さんやら兄弟やら親戚やら、いっつも誰かと電話してる感じですね。
お嫁さんは、それだけ濃い絆のなかに入っていかなくてはならないんです〉
音楽活動の休止を宣言してからいまに至るまでの間に、母の自死という悲しい出来事もあったが、時折発信される彼女からのメッセージを見る限り、2010年、活動を休止するまでに追い込まれた状況は改善されていっているような気配が強い。
家族の呪縛で崩壊しそうになった宇多田ヒカルを癒したのは、より強烈なイタリアの家族の絆だったのだ。
新しい家族の支えもでき、さらに母となった彼女がついに本格的な音楽活動を再開する。これまでとは一変した環境でつくられる彼女の音楽はどのようなものになるのだろうか?
(新田 樹)
最終更新:2015.12.08 06:21