富める者はもっと富み、貧しい者はさらに貧しくなる弱肉強食社会こそが経済を活性化すると考える彼らは、規制緩和を進め、教育や医療、福祉の予算を削り、カジノなどの富裕層向けのプロジェクトに金を投入しようという橋下に、改革という名の格差助長政策を進めてもらいたくてしようがなかった。
そう考えると、今回の住民投票の背景にあったのはシルバーデモクラシー=世代間対決ではなく、むしろ弱者デモクラシー=格差対決だったというべきだろう。経済的勝ち組が賛成に回り、貧困にあえぐ経済弱者が反対票を投じた、その結果なのではないか。
実際、大阪市はマンションなどの新住民が多い北部と、古くからの住民が多い南部で経済格差があり、北は高所得者層が、南は低所得者層が多いと言われているが、住民投票は北に賛成が多く、南に反対が多い結果となった。また、高齢者を含めた貧困層の多くが反対に回ったのも明らかな事実だ。
前述の辛坊氏はそれをとらえて、“都構想否決は生活保護受給者のせい”と言わんばかりのいやしい意見を披露したが、そもそも、都構想では大阪市が解体され、財源も権限も不十分な特別区に分割されることで、事実上の“格下げ”になる。巨大開発のために特別区は権限や財源を吸い取られる。つまり、地方自治権が弱体化し、福祉などの行政サービスが低下する。介護事業など、福祉に関する事業の一部を事務組合でやることになるので、窓口も担当職員も住民から見えにくくなり、住民と自治体の距離が遠くなる。国保や介護保険料の値下げも事実上できなくなる。
となれば、こうした福祉の低下を恐れて貧困層や低所得者層が反対するのは当然ではないか。それをあたかも、「生活保護を不正受給できなくなるから」「ただでバスに乗れなくなるから」といった理由で反対しているかのように矮小化する新自由主義者の下劣さには反吐が出る。
しかも、である。こうした「勝ち組」の新自由主義者たちはもうひとつ、大きな勘違いをしている。
彼らは都構想によって大阪市の財政が健全化され、民間の経済が活性化し、経済成長が見込める、だから改革を止めるな、と言う。まさに構造改革派の典型の物言いなのだが、仮にその理論に乗っかったとしても、橋下の提唱する都構想では彼らが言うような結果が得られないことが判明しているのだ。
たとえば、財政の健全化。橋下は都構想により二重行政が解消され、「年間4000億円が浮く」と謳っていたが、最終的な効果額は結局、年間1億円しかないことがわかった。さらに行政移行に伴う初期費用は600億円もかかると試算されており、継続費用も年間20億円。都構想は逆に赤字を増すことになる。