また、今の時代、業界の大人のみならず、ファンとも「枕」してしまうアイドルが後を絶たないそうで、優月はそんなアイドルのことを「出会いドル」と呼び非難する。
〈彼女たちはツイッターやブログのDMでファンと直接連絡を取ったり、ときには実際に会って体の関係を結んだりしています。多いコだと、10人くらいのファンと寝ていることもありますからね〉
〈楽屋でアイドル同士が『あの人はカネになる』と情報交換していたり、『今月、家賃が厳しいんだ』と言って、買ってもらった服を譲り合って転売することも平気で行われています〉
これらは、「握手会」がメインのコンテンツとなりアイドルとファンの距離が縮まったうえ、ツイッターなどのSNSの普及により事務所が管理しきれないほど、ファンとアイドルをつなぐ手段が多数ある今の時代に特有のものといえるだろう。
しかし、地下アイドルを襲う肉体・精神面双方での苦労はこれらの他にもまだまだある。集団行動には付きものの「いじめ」だ。ライブ会場で手首を切る騒動を起こし事務所を解雇されたことでネットニュースにまでなったアイドルグループ・エンタの時間の白石さくらは「実話ナックルズ」(ミリオン出版)15年9月号でその実態を語っている。
〈イジメですよね。何もしてないのに無視とか、普通にありますよ。メンバー同士で会話を録音して事務所に渡して解雇させるなんてこともありました。それはさすがにエグいなって思いましたね。気に入らない子をこうやって追い出していくんです。私も事務所解雇されたらソッコーで彼氏とのツーショット写真をネットにバラまかれました〉
そんなにまで大変な苦労を背負い込み、それでもなお彼女たちを「アイドル」という仕事に向かわせる理由とはなんなのだろうか? 姫乃たまは、その答えは「承認欲求」にあると『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』に綴っている。
〈いつもライブが終わって会場を出ると、魔法が解けた感覚になります。普通の女の子に戻ってしまったという感じ。出待ちをしているファンの人も、さっきまで大声で叫んでいた人とは別人のようです〉
〈私生活の私は「普通の女の子」ですが、ライブハウスでは、どういうことか「普通っぽい女の子」になるのです。
そこでは当たり前のように、お金を払って私とチェキを撮る人たちがいて(お金を受け取る時は、いまでも変わらずドキドキします)、私がきちんと「普通っぽい女の子」になっていることを表しています。私生活の私と、お金を払って写真を撮る人は、まずいないからです〉
〈このように地下アイドルのライブには、「普通の女の子」の価値を「普通っぽい女の子」へと高める仕組みがあります。お金を払う対象に、変化させるということです
地下アイドルは舞台に立った瞬間、観客に共有されて、熱狂に包まれます。熱狂はその中に、地下アイドルの承認欲求や、ファンの認知欲求などを孕んでいます〉
〈ファンがレス(筆者注:ステージ上のアイドルから目線や手を振るなどのリアクションをもらうことを指す専門用語)やリプライを巡って、熱心にアピールする行為は、地下アイドルの、見られたい、応援されたい、認められたいといった承認欲求を満たす作用があります〉