しかも、いくら読み返しても二宮とこの母親に特別な関係があるようには思えない。どうも、二宮センセイはたんに生徒の自殺現場で母親に突然、欲情してしまっただけらしいのだ。これじゃあ、ただの変態エロ教師じゃ……いやいや、義家センセイのこと、エロスとタナトスの深遠なる関係を文学で表現しようとしたのかもしれない、などと混乱する心を鎮めつつ読み進めていると、またもやエロシーンが出てくる。
今度は、顔を知らない「あいあい」という女性からいきなり、エロ写メが送られてきたという設定だ。
〈『あいあい』からのメールには画像が添付されていた。すぐにそれをクリックしてみた。心臓が高鳴った。なんと、携帯電話の画面に、胸がアップで映し出されたのだ。大きすぎもせず、小さすぎもしない、乳首は品よく隆起している。
アキラの残像が一瞬で脳裏から消えた。
中枢神経に電流が走る。僕はひどく興奮していた。〉
〈僕の理性のリミッターは完全に解除されてしまったようだ。あんなことがあったばかりなのに、僕の下半身は隆起していた。
男には『種族存続』の本能があり、生命の危機を感じた時、なんとしてでも子孫を残さなければと、本能が生殖中枢を刺激するのだという。確かに徹夜明けの朝は普通じゃない。その意味では、僕の精神はすでに限界にあるのだろう。
いや、違う。彼女に、彼女の優しさに触発されているのだ。僕は彼女のような女が欲しかった。彼女のような女を僕のものにしたい。それだ、それだ。〉
エロ画像一枚で、自殺した生徒のことを脳裏から消去って、いったいどれだけ性欲優先なんだよ、とここでもツッコミたくなったが、二宮センセイはなんとこのエロ写メを送ってきた相手に返信してしまう。
〈きっと『あいあい』は神様が僕の人生の最大の不運に対する帳尻合わせに送ってくれた女神なんだ。せっかくだから堪能しよう。神様、どうもありがとう。〉
〈おお、やる気マンマンだね。
このとき既に、僕は完全バーチャル世界の住人となっていた。
現実なのか、仮想なのか、そんな線引きは傷ついた真夜中には必要ない。アキラのことは忘れて今夜はただ溺れよう。
僕はスウェットを下ろし、隆起したペニスを携帯カメラで撮影し、送った。
今度は、君の下半身も送ってほしいというメッセージを添えて。〉
なんだろう、これ。やっぱりタナトスとかなんの関係もないわ。というか、このしつこいエロ描写を読んでいると、義家センセイがノリノリで書いていることが伝わってきて、ドン引きしてしまう。