「美術手帖」2015年10月号(美術出版社)
9月19日から東京・永青文庫で始まり、連日大盛況とのニュースが報じられている「春画展」。
今の日本人の観点から見ると春画は「単なるいかがわしい絵」といったイメージで捉えられがちだが、2013年にロンドンの大英博物館で行なわれた「春画――日本美術の性とたのしみ」は、なんと9万人近くの来場者を記録し、そのうち半分は女性であったという。
単なる「エロ絵」ではなく、芸術としても世界で注目を集める「春画」の魅力とはいったいなんなのか? この機会に簡単に紹介してみたい。
まず、春画が世界で「芸術」として見られる理由、それは春画を描いている絵師たちが超一流の浮世絵師であったということがあげられる。日本史の教科書でも出てくる菱川師宣、喜多川歌麿、鈴木春信など、有名絵師たちはほぼ全員が春画を描き残した。これがいかに特異なことか、「美術手帖」(美術出版社)15年10月号のなかで、日本近世文学を専門とするロンドン大学教授のアンドリュー・ガーストルはこう語る。
「キリスト教の影響で中世以降、一流の画家が性表現を積極的に描くことはなかった。一方で春画には質の高い、一流の美術品が残されているのが非常に特異な点です」
また、一流作家がこぞって春画を描いたのには、宗教上の理由の他にもう一つ理由がある。国際浮世絵学会の会員で浮世絵展の監修などにも関わる車浮代氏が著した『春画入門』(文藝春秋)には、以下のような記載がある。
〈ここが今の感覚と大きく違うところですが、現代では、エロティックな作品や商業物は低俗と見られがちなのに対し、春画錦絵に関しては全く逆でした。絵師も彫師も摺師も「版元から春画の依頼を受けてこそ一流」とみなされたのです。
その証拠に、現在名が知られている浮世絵師たちは、わずか十ヵ月弱の作画期間で消えた写楽を除いて、全員が春画を手がけています〉
なんと、当時の絵師たちにとって、春画の依頼が来るということは誉れなことだったのである。