■週刊誌時代の記者クラブとの闘い、そして日本テレビに所属してからも…
〈会見場へ向かうと、そこは何百人も収容できる広いホールだった。ところが時事通信の記者がまたもや前に立ち塞がる。会見場はガラガラなのに「入れない」という。(略)
他の雑誌記者らは、大人しく廊下に出て行ったが、私はそのまま居座った。すると「出て行け!」の大合唱が始まった。見回すと、総勢百人近くのクラブ員に囲まれていた。その昔、二百人以上のヤクザの団体様に囲まれても撮影を続けたこともある私だ。サラリーマンの烏合の衆などに動じるはずもない。知らぬ顔でなおも居座っていると、TBSのカメラマンが大声を張り上げた。「がたがた言わずに、出て行け!」〉
こうした場面はむろんニュースでは取り上げられないため、初めて知る読者からすれば衝撃だろう。清水自身、当時は「なんでこの人達、こんなくだらないところにエネルギーを使うんだろう」とバカバカしさを感じると同時に怒りを抱いたという。しかしながら、こうした記者クラブとの軋轢は「数えきれないほど経験した」と振り返る。
「例えば、ある誘拐事件で警察に取材に行った。会見場は署内の会議室なんだけど、会見前はそこがマスコミの待機室みたいになっている。その部屋の入り口に『県警クラブ記者以外立ち入り禁止 幹事社』なんて貼紙があったりする。警察って言ってみれば税金で作られていて、いわば国民の共有物だよね。警察はそこを借りて使っているに過ぎない。それを更に、記者クラブとやらに加盟している社が勝手に使い、その人達が『他の奴らは一切入るな』って何言ってんの?と思った」
相手が政治家や警察ならまだしも、一体なぜ同業者であるメディア同士が相互威嚇し合わなくてはいけないのだろうか。率直に疑問をぶつけたところ、清水は「特オチ」の恐怖をあげた。
「『特オチ』っていうのは、どこの社でも報じているネタを一社だけが落とすこと。記者クラブにいると各社横並びで同じ情報が取れる。しかし、そのなかで一社が当局にとって都合の悪いスクープを抜くと『ふざけやがって』ってことになり、全社に教える情報をその社にだけは教えない、なんてことになって『特オチ』となる。
大手メディアの記者って、ジャーナリストである前にサラリーマンであることがほとんどなんだよ。だから特オチはやっぱり怖い。そうした相互規制のなかで、結局は飼い慣らされていってしまう」