〈メッセージの背後には、資本主義や警察国家権力に対する徹底的な批判を見ることができる。
彼らが新しいのは、そうした政治的メッセージを直接発するほどナイーブではなく、自分たちの怒りを祝祭的な空間とやけくそめいた黒い笑いに包んで同世代の間でなんとか共有しようとしているところだ。それは、過剰に道徳的になってしまった既存の左翼が失ってしまった、おもしろさを取り返す試みである〉
団体の動員によって集まった人々と、紋切り型のシュプレヒコール。そうした一般的な運動イメージを破る、「普通の人」のためのデモ活動──。SEALDsは、奥田氏が旅行中にイギリスやカナダ、ドイツなどで出会ったデモに格好よさを見出したことで始まっていると本人が「FLASH」などのインタビューで語っているが、彼らが絶大な支持を集める下地として、紹介したような90年代以降に日本で起きたムーブメントがあったのは間違いないだろう。
最後に、本稿冒頭にあげたラジオ番組での宇多丸の発言に戻るが、そのなかで彼はこんなことも言っている。
「太鼓に乗せるにしても、やっぱり聞くだけで言葉の乗せ方の譜割り感で、やっぱりその日本語ラップ以降の、要はかっこよくコールしようぜ!っていう意識がある人と、まあ昔ながらの乗せ方にビートというか、太鼓を乗せているんだなっていう。まあ、聞くだけでもちょっと世代感がわかるみたいな。なんかそういうのも面白かったんですよね」
「で、その日本語ラップ。だからいまSEALDsのね、特に奥田くんというね、青年なんかはちょっといろいろなメディアなんかに、すごい注目されてますけども。あの、その日本語ラップの影響みたいなところで、ちょっと研究というかですね、(中略)この番組ならではの研究アプローチみたいなの、できないかな?みたいなのはちょっと考えているところでございます」
宇多丸といえば、元陸上選手の為末大がツイッターに投稿した、〈悲しいかな、どんなに頑張っても日本で生まれ育った人がヒップホップをやるとどこか違和感がある。(中略)私達は幼少期の早い時期にしみ込んだ空気を否定できない〉という言葉に反論。日本語ラップも輸入文化を受け入れ発展してきた日本文化のひとつであると主張した楽曲「ガラパゴス」をRHYMESTERの最新アルバムに収録するなど、日本語でのラップ表現の啓蒙に尽力している人物だ。
彼がSEALDsのシュプレヒコールに対して、どんな評論を語るのか。近々発表されるであろう、その評が楽しみである。
(新田 樹)
最終更新:2015.09.11 07:27