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「廃案報道」にC.R.A.C.野間易通が緊急寄稿

ヘイトスピーチ規制法ではない! 安倍政権の排外主義が遮る人種差別撤廃基本法の行く手

 たとえばアメリカではヘイトスピーチを禁ずる法律はなく、表現の自由は最大限に保証される。ただし、ヘイトスピーチに対する社会的圧力は日本の比ではなく、ヘイトスピーチは対抗言論によって否定され、社会的地位を失うリスクと天秤にかけられるのだ。

 本来、表現の自由とは自由な対抗言論を保証しあうためのもので、原則としてどんな表現も自由であり、あらかじめそこから除外されるものはない。その中で、ある表現が禁じられる場合というのは、あくまでも公共の福祉に照らして著しく不都合のあるものを、合意によってやむを得ず表現の自由の保証外とする、緊急避難的措置にすぎない。日本では、刑法の名誉棄損罪や信用毀損罪、ポルノ規制などがそれにあたる。

 同じくヘイトスピーチの場合も、それはあらかじめ表現の自由の範疇外にあるものではなく、公共の福祉の観点から社会状況に照らして違法化が要請されるものなのである。したがって、ヘイトスピーチの違法化に対して「表現の自由があるからだめだ」では反論にはならない。自由主義社会ではさまざまな表現が、それぞれの社会の状況にあわせて限定的に「違法化」されるのであり、人種差別撤廃条約に加入している日本もまたそうした社会の一員なのだ。

 先述の朝日記事で興味深かったのは、自民党のベテラン議員の発言として「党内には排外主義的な議員もいて身動きがとれない」とあったことである。表現の自由云々よりも、おそらくこちらが本音ではないだろうか。現在の自民党は、排外主義的言論を違法化すると有権者の支持を減らすと考えているのである。

 また、公明党は包括的な人種差別禁止法ではなく、ヘイトスピーチに特化した法律にしてはどうかという対案を出そうとしている。これは一見ヘイトスピーチ規制のより厳しい法律にすべきという案に見えるがそうではなく、法案から表現規制以外の部分を削除するというものだ。

 法案をめぐっては現在、自民、公明、民主、維新による非公開の4党協議がつづいている。そのなかで、廃案になる見込みであるという憶測報道も散見されるが、マスコミを使った情報操作である。だいたい、かつて廃案となった人権擁護法案よりもさらにゆるゆるの、この程度の差別撤廃法案すら可決できないとなれば、日本の人権状況は国際社会からもさらにマイナス評価を受けることになるだろう。ここはすみやかに可決してほしいところである。 
(野間易通)

最終更新:2015.09.05 04:04

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