そして、佐野氏はまさに、この永井氏のリクエストにこたえるように、同じ書体でさまざまなアルファベット文字や数字をつくり、エンブレムをいろんなかたちで展開できるプランを出してきた。これは果して偶然だろうか。
しかも、佐野氏と永井氏の関係は、類似デザインがあることがわかって修正作業に入った後、さらに深まっていったように見える。
「佐野氏がつくった修正案は、逐一、永井さんに意見を仰ぎ、つくっていったと見られています。組織委は1回目の修正案が『躍動感がない』として、再度、修正を依頼したと説明していましたが、そんな上から目線の指示を組織委ができるはずはない。明らかに、永井さんの指示でしょう」(組織委関係者)
佐野氏はエンブレムの発表会見で、大きな円がベースになっていて、それは亀倉雄策の東京五輪の日の丸デザインへのオマージュであると説明したが、その大きな円は原案になく、修正の過程ではじめて出てきたものだった。
これも、亀倉雄策のデザインの継承を訴える永井氏が佐野氏にリクエストしていたとすれば、納得がいく。
佐野氏は広告業界では「クライアントに何を言われても全部OKする男」として有名だと報じられていた。一連の東京五輪エンブレムデザインはもしかしたら、AD永井一正、デザイナー佐野研二郎という形でつくられたのではないか。そんな疑念が消えないのだ。
いずれにしても、ここまで疑惑が出ている以上、佐野氏だけでなく審査委員長である永井氏も審査や修正の過程についてきちんと説明すべきだろう。
そして、審査委員にはもうひとり、説明責任が求められる人物がいる。それは、東京五輪に招致活動から関わり、現在も組織委員会クリエイティブ・ディレクターの肩書きをもつ電通の高崎卓馬氏だ。高崎氏は前述したように、サントリーオールフリーのクリエイティブ・ディレクターでもあり、問題になったトートバッグを佐野氏に発注した側の人間だ。
高崎氏もまた、最初から五輪招致に関わっていた関係で、永井氏と同様、組織委に大きな影響力をもっていたという。また、高崎氏の所属する電通は東京五輪の専任マーケティング代理店である。
佐野氏の選考に電通は関わっていないのか。東京五輪エンブレムとトートバッグの盗用はほんとうに無関係なのか。疑惑はまだまだつきないのである。
(田部祥太)
最終更新:2015.09.02 03:50