また、この研究に参加した岡山大学の津田敏秀教授は以前からこう主張していた。
「放射性プルームという放射性物質を帯びた雲の流れというのは、事故の際、福島県の県境で止まったわけではありません。福島県と隣接したところも、福島県の調査に近い小児甲状腺がんの多発が起こってる可能性があります。早く症例把握をすべきです。早ければ早いほど良い。福島県と近隣県については、がん登録を充実させて、可能なら広島、長崎でやってるような被爆者手帳のようなものを作って、健康のフォローをすべきだと思います」
実はこの問題は、国会でも論議になっていた。今週24日の参院予算委で、渡辺美知太郎議員が望月義夫環境大臣にこんな質問をしたのだ。
「福島県外で子供の健康調査を行わない理由というのが、福島県内より被ばく線量が、特に甲状腺への放射性ヨウ素による被ばくが福島県内より低いとしていることしか根拠がなくて、科学的根拠が少し薄いのではないかと思っております。また、福島県民健康調査検討委員会では福島県での甲状腺がんの発生については、原発事故によるものではないとは言い切れないと中間とりまとめを出しておりまして、つまり簡潔に申し上げますと、福島県での甲状腺がんの発生、これはまだ慎重に考えるべきだという立場です。そして、福島県外でも線量が低いからやらなくてもいいよというのは、わたくしはこれ、いささか乱暴な話ではないのかなと思っています。せめて希望者だけでもですね、子供の健康調査をやっていただけないか、再度環境大臣に伺いたいと思います」
ところが、これに対する答弁は、なんとも冷ややかなものだった。望月大臣はまず、こう切り出した。
「福島県外の近隣ではですね、有識者会議による検討の結果、特別な健康調査等は必要ないという見解が、まず取りまとめられております」
望月大臣のいう“有識者会議”とは、環境省に設置されている「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」という会議体のことだが、これを錦の御旗に近隣県の調査必要なし、と突き放したのだ。
さらに、望月大臣は近隣県で一律に甲状腺検査をすると「偽陽性」、つまり、がんがないにもかかわらず検査で陽性と判定されるおそれがあり、福島での調査でもいくつか偽陽性の事例が出ていたこと、その場合、子供やその親に心配をかけること、などの理由を並べ、近隣県の調査への慎重姿勢を崩さなかった。