藤田氏は下流老人を「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義し、下流老人の具体的な指標として、1「収入が著しく少『ない』」、2「十分な貯蓄が『ない』」、3「頼れる人間がい『ない』」(社会的孤立)という3つを挙げている。
1「収入が著しく少『ない』」状態とは、いわゆる「貧困」状態だ。「相対的貧困率」(統計上の中央値の半分に満たない所得しか得られない人の割合)を目安に、2013年の国民生活基礎調査をもとにすれば、一人暮らしの場合、年の可処分所得額122万円、二人世帯では約170万円、三人世帯では約210万円、四人世帯では約245万円、この基準以下の収入しかない場合があてはまる。
2「十分な貯蓄が『ない』」状態は、収入が少ないために貯蓄に頼らざるをえないのだが、老後の生活もお金がかかる。「高齢期の二人暮らしの場合の1か月の生活費平均は、社会保険料などをすべて込みで約27万円。仮に年金やその他の収入が月約21万円あったとしても、貯蓄額が300万円では約4年で底をつくことになる(不足分6万円切り崩し×50か月)。仮に1000万円あっても、14年弱しかもたず、最終的に貧困に陥る可能性があるのだ」(同書より)
厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」によれば、4割以上の高齢者世帯が貯蓄額500万円に満たないとされ、数年で「すでに貯金を使い果たしてしまった」状態に陥りかねないのだ。
貯蓄がゼロのうえに、相談できる、3「頼れる人間がい『ない』」(社会的孤立)となれば、生活に困窮しても助けを求められず、問題が表面化するのは重篤化してからだ。
「下流老人とは、言いかえれば『あらゆるセーフティネットを失った状態』と言える。収入が低くても、親の遺産なども含め十分な貯蓄があれば問題ない。また、貯蓄がなくとも、家族の助け、地域の縁があれば支えあって暮らしていける。しかし、そのすべてを失ったとしたら……。現状において、有効な手立てを講じるのは難しいと言わざるをえない」(同書より)
たとえば、同書で紹介されている新潟県出身の男性・加藤さん(76)は、県内の公立高校を卒業して以降、自衛隊や飲食店、介護職など仕事を転々としてきた。「ところが、40代にさしかかるとき、重大な転機が訪れる。一番働き盛りのこの頃に、両親が相次いで病気に倒れ、介護が必要な状態になってしまったのだ」。