『たった一人の熱狂 仕事と人生に効く51の言葉』(見城徹/双葉社)
幻冬舎の見城徹社長といえば、元少年Aの『絶歌』(太田出版)の影の仕掛人として話題になっている人物。元少年Aは見城氏の著作を読んで、幻冬舎で本を出版したいと売り込んできた。そして、当初は同社で出版する予定で進めていたのだが、途中で取りやめ、見城氏自らが太田出版に紹介したのだという。
『絶歌』出版の倫理的な是非については、本稿の趣旨とずれるので置いておくとして、しかし、この見城氏の行動、彼が普段、掲げている信条とは矛盾しているのではないだろうか?
「顰蹙は金を出してでも買え」
これは彼が2007年に出版した本『編集者という病い』の帯につけられたキャッチコピーである。あれから8年経ったいま、顰蹙を買う“金”がなくなったのか、買う“意欲”がなくなったのかは分からないが、見城氏は顰蹙を自分で買わずに他人に押し付けたのだった。
ちなみに、『編集者という病い』を出版したのは、『絶歌』の版元・太田出版。このときは、同社も「顰蹙は金を出してでも買え」といった著者からその顰蹙を押し付けられるとは、ゆめにも思わなかっただろう。
そんな見城氏だが、今年3月、『たった一人の熱狂 仕事と人生に効く51の言葉』(双葉社)という、“仕事論”について熱く語った本を上梓している。
角川書店で17年間売上げトップを走り、退社後に起業した幻冬舎でも成功をおさめた見城氏による、ありがたいビジネス講義である。いまの彼の状況を踏まえつつ読んでみることにしよう。
まず、彼は「理念なんかいらない」と題された章でこう語る。
「成功と失敗の分かれ目を測る基準は数字だ。何万部本が売れたのか。利益がいくら上がったのか。数字に厳密にこだわるからといって、「あいつは金と利益至上主義に支配されている」と非難すべきではない」
さらに、こうも言う。
「企業家を目指す若い人の中には、「世の中を良くしたい」「社会貢献をしたい」と高慢な理想を口にする人がいる。こうしたお題目を耳にすると、どうも僕には欺瞞的に思えてならない。美しい理念や目標を掲げるのは結構だが、そのゴールへたどり着くための資金は誰が準備してくれるのだろう」