『それでもボクは会議で闘う ドキュメント刑事司法改革』(岩波書店)
周防正行といえば、映画『Shall we ダンス?』や『シコふんじゃった。』で日本アカデミー賞を受賞した日本を代表する映画監督。バレリーナ・草刈民代の夫としても知られている。
その周防が警察や検察の取り調べを改革するための法案作りの審議会に参加していた――。そんな事実を知ったら、少し意外な感じがするかもしれない。しかし、それは、われわれ国民にとっては大正解の人選だった。
周防はこのほど、『それでもボクは会議で闘う ドキュメント刑事司法改革』(岩波書店)という本を出版。その会議で自分が体験したできごとをつぶさに公開し、お役所の審議会の唖然とするような実態を暴露したのだ。
周防が法務省所管の法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」委員に選出されたのは2011年6月。当時は調書改ざんなど検察の不祥事が大きな社会問題となり、足利事件が冤罪だったことも発覚するなど、司法・警察の不祥事が続発していた。そこで制度改革の必要性が指摘され、設置されたのが、この部会だった。
周防は07年に痴漢冤罪事件をテーマにした映画『それでもボクはやっていない』を製作して以降も、現状の司法制度全般に問題意識を持っていた。日弁連からの推挙を受けた周防は当初、受諾することを悩んだが「映画監督として取材するつもりで」との言葉に説得され、これを引き受ける。
しかし、周防の目の前に立ちはだかったのは、不条理ともいえるお役所の厚い壁だった。
会議のテーマは多岐に及んだが、本書では「取り調べの可視化」「裁判における証拠の全面開示」、そして人質司法と言われる「身柄拘束の実態」についての議論がメインとなっている。
まずは特別部会の最大の使命だという「取り調べの可視化」についてだが、これは最初の人選からしてひどいものだったらしい。
「(委員には)取調べの録音・録画を研究している学者は選ばれていなかったようだし。取調べにおける被疑者の心理状態について考えるなら、心理学者、あるいは心理学的知見から取調べを研究している学者が選ばれても当然だと思うのだが、そういった人選はまったくされていなかった」
親しい法曹関係者からも「絶望的メンバーですね」とスタート早々言われてしまったという。