『世界の半分を怒らせる』(幻冬舎)
『機動警察パトレイバー』『攻殻機動隊』などの作品で知られ、いまや押しも押されぬ日本のアニメ映画界を代表する監督・押井守。
このほど、2012年以降約2年分の有料メルマガをまとめた彼の新刊『世界の半分を怒らせる』(幻冬舎)を手に取ってみた。
本書は、その時期ごとに話題になったニュースに関する時事評論集である。「映画監督に人格者はいない」が、「そういう勝手な人間でなければ、映画は(優れた映画は)作れない」という宣言から本書は始まる。「勝手な人間」の怒り・正義・欲望のなかにこそ「真実」は含まれるが、それらが放言や悪口である限りはパブリックな媒体に相応しくない。だからこそ「メルマガという形式で言いたいことを言い、書きたいことを書いてみようと考えた」のだそうだ。
なるほど、取り上げる素材のなかには中国反日デモ激化、北朝鮮ミサイル発射事件、安倍晋三首相靖国参拝問題……などなど「よくここまで踏み込んだな」と思わせるテーマがちらほら。
全体として、歯に衣着せぬ物言いで議論が展開される。当代きってのジブリ批判者として知られる押井だが、13年9月の宮崎駿監督引退会見にあたっても、「映画監督にとって、映画は『撮らせて貰えなくなる』という事態はあり得ても、『撮らない』という事態は存在しない」「監督を引退する、などと声明を発したりするのは傲慢の極み」とバッサリ。こうした前人未到の批評域に踏み込めるのは、まさに押井ならではだ。
しかし──本書を読みながら、ひとつどうにも気になってしまったことがある。ジブリ批判にあたってはあれだけ威勢がいい論を展開しておきながら、女性絡みの話題となると筆が迷走し、おかしな方向へと話が進んでしまっているのだ。
例えば、12年11月のオバマ大統領再選というテーマがそうだ。基本的にはオバマに懐疑的なスタンスで議論が進んでいくが、その途中、弁護士であると同時にアメリカ合衆国国務長官・上院議員をもつとめた対立候補のヒラリー・クリントンに言及が及ぶ。