女性と交際経験がなく、外見も経済力も残念な「非モテ系」の30代SEは結婚市場においてわかりやすいほどの弱者だった。婚活ブームに肩を叩かれ、電話による占いサービスにハマる。最初は優しく話を聞いてくれた女性占い師は励ましてくれたものの、煮え切らない態度に「あなたはそんなんじゃ、もう、変われませんよ」「あなたは何度言ってもわからないのね」と突き放されてしまう。それでも自分にとって「良い占い結果」を聞きたくて、深夜や仕事中にも複数のサービスを利用、百万円近い大金をつぎ込む羽目になる。婚活イベントに参加し、意を決して女性に話しかけても、すっと逃げるようにその場を去られてしまう。
いくら盛り上がっているとはいえ、あるいは盛り上がれば盛り上がるほど、婚活ブームからもこうして弾かれてしまい、上手くいった他人と自分を比較していっそう自分を追いつめてしまう。結婚情報サービス業者にとどまらず、自治体も「街コン」などを主催、婚活を後押しするのだが、これは意外にも逆効果なのだと著者は指摘する。
〈出会いの場が広がれば広がるほど、当事者たちは「もっと自分が求める理想的な人がほかにいるのでは」と考え、うまくマッチングにつながらない。年収や外見、年齢といった外面ではない、目に見えないところにこそ確かなものがあるはずなのに、相手を知ろうと努力する以前に躊躇し、相手を排除してしまっている〉
つまり、男も女も、選択肢が多いほど、結局は何も選択できないというジレンマに陥るわけである。
仮に結婚が出来て、子どもが出来ても、男たちを悩ませるものがある。男の積極的な育児への参加、いわゆる「イクメン」圧力だ。厚生労働省は2010年に「イクメンプロジェクト」を発足、れっきとした国家事業である。税金使ってそんなことやっている場合かどうかは微妙だが。実際、著者もこのムーヴメントに「一理ある」としながらも、〈実際に存在するのはごく少数にもかかわらす、「イクメン」が脚光を浴びれば浴びるほど、それが男たちにとって精神的な圧迫となり、自らを追いつめているケースが少なくない〉と、取材経験を語る。例えば「パパサークル」(著者が命名した)なる、職場も地縁も超えた子育てパパの活動では、親バカぶりを語り合い、皆嬉々として育児話に花を咲かせ、そのやりがいや楽しさを披露しあう。
とあるパパサークルの中心人物で常に前向きな「イクメン」ライフを語っていた30代後半の会社員は、著者が取材を続けるうちにだんだん様子が怪しくなっていった。妻が第二子を出産し専業主婦となった。仕事も重責を伴うようになっていた。数年後、彼はついに「仮面イクメン」を演じていたことを告白するに至る。育児には参加していたのだが、やりがいはあっても、楽しくはなかった。出世競争に敗北した後ろめたさから、妻や子どもに必要とされるために育児に力を注ぐしかなかった。夫として、父親としての存在理由を求められ、あるいはそのプレッシャーゆえに、自らに無理を課していたのか、子どもたちもそんな父親の本心を知ってか知らずか、妙に不自然な笑顔を見せるようになった。自分も賛同していたが、世間が「イクメン」と騒ぐのが実はわずらわしくて仕方がなかった。