米国にへつらいまくる安倍首相だが…
今回の安倍晋三首相の訪米をひとことで言い表わせば、ネギを背負ったカモが言葉の限りを尽くしてご主人様に忠誠を誓い、すべてを捧げますと約束するための旅だった。ポスト冷戦でかつての西側諸国が新たな国益をかけた駆け引きを演じるなか、安倍首相はいまさらのように「米国と組み、西側世界の一員」になったことを喜び、「いまも、この道しかありません」とブチ上げた。そして、アジア太平洋地域を重視するアメリカのリバランス(再均衡)戦略を「徹頭徹尾支持するということを、ここに明言します」とまで媚びたのだ。
日本のマスコミは上下両院合同会議での演説で「侵略」や「おわび」の言葉があるとか、ないとかで騒々しかったが、アメリカがこだわっていたのはそこではない。
演説で安倍首相は、まだ日本の国会で議論が始まってもいない安保法制をこの夏までに必ず実現すると、アメリカの国会議員を前に約束した。また、演説の2日前の27日には、日米首脳が“歴史的な転換”と自賛する日米防衛協力のための新しいガイドラインが(これまた日本の国民には何の説明もなく)勝手に合意されてしまった。アメリカが期待したのは、まさにこの1点だったと言ってもいい。そして安倍首相は、ご主人様の期待通りのパフォーマンスをして見せたのだ。
この訪米でハッキリわかったのは、安倍政権が進める安全保障政策は、日本の国益のためというよりは、アメリカの要請というほうがより強い要因だったということだ。なにしろ、合意された新ガイドラインは、アメリカに都合のいいことばかりなのだ。例えば、日米協力における自衛隊の活動は、これまでは戦闘がなく米軍の武力行使とも一体化しない「後方地域支援」に限定されていたが、新ガイドラインでは限定が解除された。さらに、原則「日本周辺」とされていた活動範囲も、今後は地理的な制約なく米軍に協力することが明記された。そしてそのいずれもが、集団的自衛権によって、日本が攻撃された場合に限らずできるようになる。
これにはアメリカも大喜びだ。防衛費の大幅削減を迫られているアメリカでは、停戦前のペルシャ湾での機雷掃海や南シナ海での監視活動など、日本に肩代わりさせたい“任務”が山ほどある。これまで憲法などの制約があってできなかったことだ。それを、日本の国民には何の相談もなく、すべてお引き受けしましょうと約束してきてしまったわけだ。アメリカ様に言われれば、地球の裏側でも、いつでもどこでも、自衛隊を差し向けますというわけだ。29日付の朝日新聞には「日本海域を越えた偵察活動をよりしやすくなる」といった米国防総省高官のコメントや、「日本の後方支援をあてこんだ戦略が練れる」という米軍関係者のコメントが紹介されている。まさに、アメリカのアメリカによるアメリカのための新ガイドラインなのである。
……なんてことを書くと、必ず「いや、そんなことはない」という反論が聞こえてくる。東アジアの国際情勢はますます厳しさを増し、米軍の協力なしに日本の安全保障は確保できない。27日の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)では「尖閣諸島が日米安保条約の範囲に含まれる」ことが再確認され、新ガイドラインでも尖閣を念頭に置いた新たな「離島防衛」が盛り込まれたではないか、と。
だが、これこそが日本国民をあざむくペテンなのだ。確かに、新ガイドラインに「離島防衛」が書き込まれたのは事実だが、米軍の役割はあくまでも自衛隊の作戦の「支援」「補完」とされ、改定前と変わっていない。