神への供え物として羊の血と肉を献上した兄・カイン。そして穀物を育て献上した弟・アベルだったが、神の意図を汲まなかったとしてカインは神に疎まれ、嫉妬した兄は弟を殺してしまう。
〈きょうだいのもっている性格、活動に対する神の対応の相違が、兄のこころの中にひどい敵意を引き起こしたいきさつが示唆されている。親がもつ子どもへの好意の程度、子どもが感じ取る『あつかい』の違いなどから、子どもが敵意や恨みという感情を体験するのは避けられない〉
それはもちろん現代でも同様だ。きょうだいは永遠のライバルでもある。遺伝子の50%が共通しているというが、性格や能力、外見などは似て非なるもので、しかも生まれた瞬間から親の愛情を奪うライバルなのだから、その関係は複雑だという。とくに思春期にはそれが顕著で、「親は妹(姉)ばかり可愛がり、自分を愛していない」と感じたことが一度でもない人はいないのではないか。
さらに本書には、ある姉妹の葛藤のエピソードが書かれている。医学部に通う2歳年下の妹がいるBさんは、どんな職に就きたいかも分からず就職活動に失敗し、うつ状態となりカウンセラーを受けた。その際、彼女が語ったのは、妹への“思い”だったという。
「昔から母親に愛されているという実感がもてなかった。母親は妹のことしか見ていなかった。(略)妹は小さいときから勉強ができたし、私よりきれいだし、すべてにおいて私より上だった。妹さえいなければ、という思いを捨てることが出来なかった」
優秀な妹と凡人の自分に対する両親の扱いに不満を持つ姉。そして妹に敵対感情さえ抱いていたという。だがその感情は、〈人間として誰もが持ち得る普遍的かつ根源的な感情〉だという。きょうだい関係は本来において不条理であり、それを乗り越えることが〈おとなになる〉ことだからだ。
〈きょうだいはそれぞれ、家の中で何らかの役割を背負わされる。(略)どのような役割を担うかを、人の側は選ぶことができない。Bさんが妹を羨んで、妹の役割に取って代わろうとしても、それはできないのである。(略)さらにいえば、人は生まれてくる環境や状況を選ぶことはできない。根本的に人生は不平等なものである〉
だからこそ、大人になるということは、こうした理不尽さや不条理を引き受け、受け入れ、その関係を見つめ直すことができるようになることだという。姉妹きょうだいの確執は当然で、それを乗り越えること、そしてその後の関係こそが大切と指摘する。