“差別と闘う本屋”は日本にもあった!(『ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯』あすなろ書房)
特定の人種・民族への差別煽動を意味する「ヘイトスピーチ」。本サイトでも何度も取り上げてきた通り、国内でも中国や韓国など他国やその民族への憎悪・偏見を掻き立てる「ヘイト本」が書店に並ぶことへの違和感が現在進行形で叫ばれている。昨年10月には「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」という団体がヘイト本の氾濫に異を唱える『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(ころから)という書籍も出版されている。
それに続けて今年の2月、ちょっと気になる本が刊行された。その名も『ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯』(あすなろ書房)。アメリカで公民権法が誕生する30年近く前、まだ黒人の権利が保障されていなかった時代に、黒人の力になりそうな本だけをセレクトして集めた「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」(NMAB)という本屋がニューヨークに誕生した。その店主であるルイス・ミショーという黒人の伝記だ。
アメリカ社会で黒人が成功できないのは単に白人に抑圧されているからではなく、そもそも自分たちの歴史を知らないから──「結局、いつも同じところに帰ってくる。知識だ。(略)(黒人は)本を読まなければならない」と考えたミショーが店を開いたのは1939年(44歳)のこと。まだほとんどの出版社が黒人に興味を持っていない時代に、関連書籍をかき集めてニューヨークの一角・ハーレムに店をオープンさせた。始めた頃は客の出入りもままならなかったが、時を経るにつれて次第に注目を集めていく。オープンから10年後の1949年、店を訪れたとある新聞記者は、次のように書き残している。
「看板には『店内は全世界の全黒人の全事実でいっぱい』と書いてある。下手なうたい文句と言うかもしれないが、店の外に5分も立っていれば、その効果がよくわかる。通りかかった人たちは看板を指さして笑い、あれこれ言いはじめて、その多くが店に入っていくのだ」
「反ヘイト本屋」の世界的な先駆けともいえるNMAB。うおお、こんなお店日本にも欲しいじゃないか!……と思っていたら、国内でもヘイトスピーチへの対抗本を陳列した「反ヘイト棚」を構えた本屋が神戸に出現しているという情報が耳に飛び込んできた。これははたしてNMABの再来なのだろうか? 実態を探るべく4月、現地に飛んだ。
神戸の中心地であるJR三宮駅から1駅の元町駅を降り、乙女心をくすぐる雑貨屋やお洒落なカフェの連なる乙仲通を歩くこと約10分。ややレトロな雑居ビルの2階に「書肆(しょし)スウィートヒアアフター」という名のその店はあった。お店が正式にオープンしたのは2014年12月。まだできて4ヶ月足らずの新米店だ。