衆院議員でジャーナリストでもある有田芳生もいち早く江川に賛同するかたちで違和感を表明。また経済評論家の森永卓郎も「古賀さんは番組を壊してしまった」と批判し、社会学者の古市憲寿は「僕の知ってる限りでは(圧力は)ない」として「古賀さん自体は勝手なこと言ってるだけだと思うんですね」と断じた。『モーニングバード』(テレビ朝日系)のコメンテーターなどをつとめながら、反権力的姿勢をつらぬいているジャーナリストの青木理も「基本的に楽屋の話でしょう」と古賀批判を口にしている。
繰り返すが、古賀が告発したのは『報ステ』への圧力であり、「個人的恨み」などではない。また、政権からの圧力は出演者に対して直接加えられるようなわかりやすいものでもない。彼らはこの騒動を古賀個人の問題に矮小化することで、結果的に政権による報道への圧力を正当化してしまっている。
そんななか、ジャーナリストとしてもっともメジャーな存在である池上彰が誰よりも踏み込んで、政権与党を批判したというのは、さすがという他はないだろう。実際、今回に限らず、池上はこれまでも一貫して報道の自由を守るための主張を展開してきた。
たとえば朝日新聞慰安婦報道に関しては、「週刊文春」(文藝春秋)14年9月25日号の連載コラムで、朝日バッシングに走るメディアをこう牽制した。
〈朝日の検証報道をめぐり、朝日を批判し、自社の新聞を購買するように勧誘する他社のチラシが大量に配布されています。これを見て、批判は正しい報道を求めるためなのか、それとも商売のためなのか、と新聞業界全体に失望する読者を生み出すことを懸念します。〉
さらに、メディアは「売国」などという言葉を使うべきではない、「国益」にとらわれるべきではないとも主張した。
〈メディアが「国益」と言い始めたらおしまいだと思います。(略)私は、国益がどうこうと考えずに事実を伝えるべきで、結果的に国益も損ねることになったとすれば、その政権がおかしなことをやっていたに過ぎないと思います。〉(「世界」岩波書店/14年12月号)
ほとんどのメディアが政権からの圧力を恐れ、批判を封印するなか、池上だけが正論を吐き続けているのだ。
しかし、その池上は、もともと左翼でもなんでもないニュートラルな解説者だったはずだ。そんな池上がいつのまにか一番リベラルなポジションにいるという事実が、日本の言論状況の危うさを証明しているというべきだろう。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.12.23 07:13