風俗産業の犯罪もなかなかすごい。ノーパンしゃぶしゃぶ、イメクラ、ハプニングバーなどと、独自の進化を遂げている日本の風俗店だが、戦前から同様のサービスは存在していたようだ。
たとえば、明治41年頃に、相州中郡平塚町、現在の神奈川県平塚市にあった病院での話だ。その病院には60~70人の看護婦が在籍していたが、実はこの病院には本物の看護婦はほとんどおらず、男性入院患者を相手に夜な夜な売春が行われていたのだ。まさにアダルトビデオの世界そのものといえる売春病院が存在していたというわけだ。
また、『三面記事から見る 戦前のエロ事件』では、昭和6年に大阪で摘発された「全裸ダンス団」なるものが紹介されている。民家の中で主催者側のレビュー団員と参加者側が全裸になって踊ったり、性交に及んでその様子を鑑賞したりするという会員制の集まりだ。今でいうなら、スワッピングサークルやハプニングバーに近いもので、会員はおよそ200名。資産家の女性や会社の重役なども含まれていたという。
この「全裸ダンス団」について、著者・橋本玉泉氏は、日銀の重役や高級官僚が会員として名を連ねていた歌舞伎町の「ノーパンしゃぶしゃぶ」との共通点を指摘。「エライ人たちも、昔から現在に至るまで裸とかエロとかがお好きなのは変わらないようである」というように、日本人がエロいのは今に始まったわけでなく、多様な風俗産業にも歴史があるのだ。
ただ、風俗について忘れてはいけないのは、戦前の女性たちが借金のカタに売り買いされていたという事実だ。当時の新聞には〈自分の妻を「売った」とか「貸した」とか、さらには「抵当に入れた」「牛と交換した」などという記事〉が数多いことが裏付けるように、女はモノ扱いを受けてきた。当然、多くの女性は結婚も職業も自分で選択できず、親や夫に売られる女性も後を絶たなかった。
だが、そんななかにあっても女はたくましかった。本書では、明治12年に女性たちが保険会社を設立した新聞記事を紹介しているが、その見出しは「淫売相互保険会社」。そう、公娼制度の合法化によって私娼が処罰される事態を受け、私娼有志30人が大阪に保険会社を立ち上げ、「これでいざ捕まっても、保険金で罰金が払えるから安心」という保険を考案したのだ。〈ちなみに、日本最古の生命保険会社である共済五百名社(現・明治安田生命保険)が設立されたのは、この翌年の明治13年〉というから、彼女たちの先見の明には驚くべきものがある。
しかし、こうして見ると、「古き良き日本を取り戻そう」と連呼する人たちがいかに戦前日本の実像を無視しているかがよくわかるだろう。昔から日本人はモラルもなかったし、マニアックな性癖の人もたくさんいたし、エスタブリッシュメントから庶民まで、いろんな層がエロい事件をたくさん引き起こしていた。安倍政権は古き良き日本を取り戻すために、「道徳教育」を復活させるそうだが、たぶん教育なんてなんの関係もないと思うけどねぇ……。
(大方 草)
最終更新:2018.10.18 05:12