『聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)
「聖地巡礼」から、宗教的意味合いが薄まりつつある。テレビや雑誌の企画では「パワースポット」巡りが延々と量産されている。岡本亮輔『聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)は、このパワースポットという言葉について「宗教臭さや伝統の重さを感じさせない言葉が流通したことで、聖地を観光の対象として取り上げやすくなり、一般的な旅行情報の中に違和感なく聖地巡礼を織り交ぜることができる」と分析している。ちなみに、パワースポットとは和製英語、宗教観をポップにほどくこの言葉に寄りかかりながら、ポップな聖地巡礼が全国各地で生まれ続けている。
著者は、2000年以降に生じたパワースポットを三類型に分ける。(1)再提示型、(2)強化型、(3)発見型だ。「再提示型」は、かねてからの聖地があらためてパワースポットと言い換えられるパターン。伊勢神宮はパワースポットブームを受けて、2010年に860万人という驚異的な参拝者数を記録した。この「再提示型」には、公的機関が観光誘致のためにパワースポット化を図るケースも多く存在する。「石清水八幡宮パワースポット巡り」を紹介している京都府八幡市のサイトでは「鳥居や塔を手で触るなどしてパワーを感じていました」とあるが、著者は「手で対象に触れたりパワーを感じたりといった実践が伝統的な神社の参拝のあり方と異なることは言うまでもない」と記す。
静岡県ではなんと、県の統合基盤地理情報システムにパワースポット情報が組み込まれている。都市計画情報・南海トラフ地震の津波被害想定・埋蔵文化財情報などを一括表示するシステムに「ふじのくにエンゼルパワースポット」と題し、恋愛・結婚・子宝に関連するスポットが表示されるという。こうして寺社の存在が、公的機関の働きかけにより、あらためてパワースポットとして紹介されていくのだ。
「強化型」は、元から高い知名度を持っていた場所がパワースポットに言い換えられるケース。箱根神社や東京大神宮などでは、メディアの影響で縁結びの効能が高められ、神社側もその動きに積極的に応えていく。東京大神宮では女性客用に、神社では全国初のドライミストが設置されているという。思いを寄せる相手の心を開かせるという意味を込めた鍵をかたどったお守りまであるそうで、強化というか、迎合というか、マーケティングというか……。
「発見型」は、そもそも非宗教的であった場所がいつの間にかパワースポットとして紹介されるケース。愛知県の清洲公園では織田信長の銅像が設置されていたが、2012年に信長の妻であった濃姫の銅像がその隣に移設されると、市のウェブサイトで「始まりの地 〜二人の愛と希望の丘〜」と紹介されパワースポットして稼動し始めたという。正に、力ずくのスポット作りだ。地方のちょっとした公園に行けば、往々にしてメンテナンスが行き届いていない銅像が寂しげにしているものだが、それらを磨き直して、パワースポット化させるというリサイクル・スポットも出てきているのだろうか。