では、世界最大の軍事力を持つ覇権国家アメリカと、新興覇権国としてのポジションを虎視眈々と狙う中国の間に挟まれ、日本が果たすべき役割は何なのか。それは「アメリカ、中国にできないこと」だと柳澤氏は説く。戦後の日本はアジア諸国の経済成長に貢献し、武器輸出を行わない国として軍縮に先導的な役割も果たしてきた。民間企業においても現地ワーカーを育て経営のノウハウまで与える日本的手法は、単なる富の収奪に近い中国のやり方とは異なる日本の誇るべきブランドとして育ってきた。国際平和協力でも、日本は武器を使わずに現地の要望に配慮した独自の活動を展開し、成功を収めた。その経験から、日本の防衛にとって集団的自衛権はまったく必要なく、むしろ有害無益なものだと結論づけている。
柳澤氏が実際に携わった自衛隊のイラク派遣では、他国の軍隊が砂漠と同化するベージュの服を着ていたのに、自衛隊はあえて緑色の迷彩服を選んだという。ヘルメットにも肩にも目立つように大きな日の丸をつけた。これはつまり、「自分たちは戦争をしに来たのではない」というアピールだった。結果、自衛隊はイラクで現地の人に一発も弾を撃たず、一人も殺さなかった。「自衛隊」という国際ブランドの評価は大いに高まった。これこそ日本が戦後70年かけて築いた、アメリカや中国が逆立ちしても真似のできない日本ならではの優位性だ。これをもっともっと、利用しない手はないのである。しかし、安倍首相はこれに逆行し、日本ブランドを台無しにしようとしているのだ。
それにしても、政権の中枢にいた柳澤氏の著作を読むと、安倍首相がいかに頭が悪く、危険な人物かがリアリティを持って伝わってくる。
物事の優先順位や費用対効果、契約と取引の基本ルール、差別化による競争力の獲得、利害の対立と妥協など、一般的職業人なら普通に備わっている素養がこの男にはことごとく欠けている。そして、自分の「個人的願望や夢」のために平気で日本人に血を流させようとする──。もしかすると、日本にとっての最大の脅威は「安倍首相の存在」なのではないだろうか。
(野尻民夫)
最終更新:2017.12.19 10:21