もっとも、女性議員の場合、利権をめぐる癒着や金銭スキャンダルが少ない分、選挙時には対立候補の陣営から根も葉もない男女関係のスキャンダルを流されることも珍しくはなかったらしい。92年の参院選に無所属で出馬して落選、翌年の衆院選で初当選した高市早苗(その後自民党に入り現在は総務相)も、選挙終盤ともなると地元の有力者や大物国会議員の愛人であるとの怪文書が選挙区にばら撒かれたという。当選してからも、中年の国会議員から「オッパイでかいね」などとセクハラ発言をされるのは日常茶飯事、新人時代には野田聖子と一緒に国会のエレベーターに乗っていたとき、男性議員から「国会はおまえらみたいなチンコロ姐ちゃんが来るところじゃないんだ」と暴言を吐かれたこともあったとか(「婦人公論」97年3月号/中央公論社)。
女性議員をめぐる状況はその後どれだけ改まったのだろうか。今回の中川郁子と門博文の一件にせよ、政治家同士の恋愛スキャンダルで女性に批判が集まりがちなところを見ると、園田直と松谷天光光の「白亜の恋」の時代からほとんど変わっていないようにも思える。他方、“酔った勢いのキス”でも、自民党所属の参院議員で日本スケート連盟会長の橋本聖子が昨年のソチ五輪後、フィギュアスケート代表だった高橋大輔(彼は政治家ではないが)にキスを迫ったという一件などは、かつての泉山三六の事件とは男女の立場が完全に逆転しており、橋本によるセクハラ・パワハラだという批判の声も上がった。いや、ひょっとするとこの一件は、政界で女性が出世するには、男並みにセクハラでもやれるぐらいでないと無理だという事実を示唆しているにすぎないのではないか。
前出の高市早苗は政治家として売り出し中の頃、“オヤジ殺し”として知られた。最初の選挙で落選した直後には、雑誌で対談相手のタレント・山城新伍に、高市からその世間的なイメージにふさわしからぬハートマーク入りの手紙をもらったことを暴露されている。高市はそれを受けて「でもね、誰にでもハートのマークを書くというわけじゃないの」と言ってのけた(「週刊現代」92年9月19日号/講談社)。彼女のこの言葉からは、日本ではときには女であることを武器にしつつオヤジに媚びないことには権力などつかめない、という厳粛たる事実がうかがえまいか。オヤジに取り入りながら出世してきた女性政治家たちが、セクハラにおよばないまでも精神的にオヤジ化するのは当然のことなのかもしれない。
(近藤正高)
最終更新:2017.12.19 10:19