左/吉川浩満『理不尽な進化──遺伝子と運のあいだ』(朝日出版社)は本サイトの記事でも取り上げた。 右/山本貴光『文体の科学』(新潮社)
このところのニュースへの反応を見ていると、今さらながら痛感するのは、ネットが「共感と反発」を増幅するメディアだということだ。社会心理学の知見によると、人は自らの主張を裏付ける情報にばかり注目し、そういう情報を集める「確証バイアス」なる傾向があるらしいが、インターネットはこれにぴったりのようだ。知りたいキーワードを検索窓に打ち込み、読みたい記事をクリックし、共感した記事にいいね!を押してシェアする(もしくは、意に沿わぬ記事はSNSでくさして溜飲を下げる)──この一連の流れは、ほとんど自己完結している。
これは私たち情報の送り手も同様で、荒々しいネット言論に身を置いているうちに、いつのまにか、自説をどう説得力をもって伝えるか、そのことにのみ関心が集中し、多様性や柔軟性をどんどん失っているような気がする。
このタコツボ的状況を抜け出すにはどうしたらいいんだろう。
月並みだが、答えはやはり「ネットの外」に出て新しい世界を知る、それしかないのではないか。たとえば、「本と雑誌のニュースサイト」であるリテラの人間なら、今まで読んだことのない本に出会って、自分とは異なる経験や思考に触れること。
そんなことを考えていたら、ヒントを与えてくれそうなイベントにでくわした。池袋の書店、リブロ池袋本店で開かれたトークショー「いかに探し、読み、書くか? ネット時代の〈本〉との付き合い方」。
パネラーは山本貴光氏と吉川浩満氏(以下敬称略)のコンビだ。二人とも博覧強記の哲学研究者でありながら、同時にウェブやゲームなどの仕事に就いていた経験もあり、ネットサービスやデジタルガジェットにもくわしい。そんな二人が、今回、それぞれの単著の刊行記念イベントとして、本の探し方や読み方のテクニックを開陳してくれるというので、参加してみた。
(山本貴光+吉川浩満「いかに探し、読み、書くか? ネット時代の〈本〉との付き合い方」2015年2月10日(火)リブロ池袋:池袋コミュニティカレッジにて開催)
■いかに本を探すか(1)──書棚という物理環境を大事にする
現在、年間の新刊点数は8万点を超える。実に、1日に200冊以上の新刊が出ているのだ。本は多すぎる。すでに300年前ドイツの哲学者・ライプニッツが言ったように、「書物の数はたえず増大していき、人々は書物の氾濫にうんざりする」。
では、どのように必要な本を探せばいいのか。山本は物理環境の重要性を強調する。
「ブックガイドを書く仕事を例に説明してみましょう。テーマを与えられたら、私はまず自分の書棚を眺めてみます。たいした蔵書ではありませんが、棚を眺めながら、これはと引っかかる本を抜いていくんです。最初に見るのは岩波文庫を並べた棚です。というのも、岩波文庫は六千冊に近い規模で古今東西の古典を集めた一種学芸の百科全書になっているのですね。それだけに、特に学術にかかわるテーマを念頭に眺めると、なにかしらのヒントが得られます。そんなこともあるので、岩波文庫は仕事机から見える場所に並べているわけです」