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自衛権拡大がもたらすもの…米軍は中東派兵で年250名の自殺者、自衛隊も自殺率14倍に

 戦場に派遣された兵士は、善悪を麻痺させる。帰還兵は語る。「これまででいちばんすごい映画を最前列で観ているみたいだった」「銃撃戦でいつ撃たれるかわからない状態ってのは、最高の性的興奮を覚えるんだ」。米軍キャンプで飼っていた犬に吠えつづけられたことに苛立ったイラク人警察官が、あろうことか、犬のアキレス腱をナイフで切り裂いた。米軍兵士はその後に何をしたか。「何人かの兵士が後になって、そのイラク人にまったく同じことをしてやったと自慢していた」。

 こういった麻痺を抱えたまま、日常生活に強引に戻ろうにも戻れない帰還兵が、心を病んでいく。先の記念式典の例のように、善意で暴走した戦争は押し並べて善意で回収され、心の傷は誰とも分かち合えず、たった1人で抱え込むことになる。家族の理解すら得られず、時として家庭内暴力に発展するケースも少なくない。「アメリカン・ソルジャー」のその後は可視化されないのだ。

 本書の推薦コメントとして内田樹が、「何も知らないまま戦争を始めようとしている人たちがいる」と書き、警戒している。何でもかんでも段階的に緩めていこうと画策する日本の現政府は、この本に記された「人の余生を蝕み続ける戦争の悪夢」を知るべきだろう。いいや、隣国との緊張関係を考えれば平和ボケしている場合ではないんだ、「間もなくやってくる現実」を考えろと毎度の声がかかるだろう。ならば、問いたい。イラク戦争時に日本の自衛隊員が帰還後に28人も自殺しているという、「既にある現実」はどうなる。

 自衛隊の活動領域が広がり、より戦場に近い場所で動くことになれば、その数値はどうしたって跳ね上がっていくだろう。「この道しかない」と我が道を突き進む現政権、この道を行けば何が待っているのか。ファンタジーのような『永遠の0』に奮い立つよりも、「永遠に0」にならない自殺者と向き合うべきではないのか。
(武田砂鉄)

最終更新:2017.12.19 10:03

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