たとえば、それが如実に表れたのが、あの田母神俊雄氏の幕僚長更迭のきっかけとなったトンデモ論文を全面的に擁護したことだろう。
念のため“田母神論文問題”を簡単におさらいしておこう。これは08年、当時航空幕僚長だった田母神俊雄が、民間企業主催の懸賞論文の第一回最優秀賞を受賞したことに端を発した問題だ。論文の内容は、「我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者なのである」「私たちは多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識しておく必要がある」などという“日本の侵略否定論”。仮にも空自のトップが「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」と明言したことで、永田町は大騒ぎになった。
しかし、そもそも田母神論文はそのスタンスが政府見解とは異なるという以前に、“日米開戦はルーズベルト米大統領の罠だった!”とか、“日中戦争はコミンテルンの仕業である!”という、歴史学者から一笑に付されている俗説を根拠にした、トンデモ論文だった。そのため、保守系からも田母神論文を擁護する者はほとんどいなかった。
ところが中西氏は、「WiLL」(ワック)09年1月号で「田母神論文の歴史的意義」と題したキャンペーン記事をぶち、田母神を徹底的に擁護、あまつさえ〈「日本滅びず」、との感慨を深くするものだった〉と「非常に喜ばしく」評価したのである。
しかも、この記事のなかで中西センセイは、「村山談話の偏向した歴史観と現在の日本の対外政策が表裏一体となっていて、どうにもならず、日本ががんじがらめになってしまっている」と主張。とりわけ村山談話を「一種の政治的クーデター」と呼んで批判し、この「閣議決定」は「原理的に違法」「違法かつ違憲の疑いが強い政治的行為」と興奮さめやらぬ調子で記しているのだ。
ようするに、中西センセイは、安倍首相が建前とする「村山談話を全体的に継承する」という考えすら皆無なのである。こういう人物が「有識者会議」のなかに名を連ねていること自体、はっきりと安倍首相の二枚舌を象徴していると言えよう。
なお、こうして田母神氏の後ろ盾となった中西センセイだが、そのわずか一ヶ月後の「WiLL」09年2月号で、歴史学者・秦郁彦氏に正面から徹底批判されている。その題名はズバリ「陰謀史観のトリックを暴く」。
もはや、タイトルだけで秦氏が何を言わんとしているか分かるだろう。秦氏はこの記事や著書『陰謀史観』(新潮新書)のなかで、田母神論文の誤謬と、それを支持する中西センセイたちの詭弁を“学者として”丁寧に反証している。
無知なネトウヨ諸君のために付記しておくが、残念ながら秦氏は左翼でも市民運動家でもない。実証的な調査で朝日新聞の吉田証言の嘘を最初に指摘した歴史学者。中西センセイはそんな保守派の学者さえ呆れ返るような陰謀論を全面肯定していたというわけだ。