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増加する中年童貞が抱える事情とは? 高学歴がネック、処女信仰、同性愛者のフリ…

「僕は現実的には童貞なのですが、恵子さんと何度も何度も抱き合ったりしているし、童貞って気がしない。だから童貞を捨てたいとか思わないし、風俗とか興味ないし、別にこのままでいいかなって思っていますね」

 著者の中村氏は、塗料メーカー勤務の彼のような高学歴の中年童貞を、勉強という成功体験がありつつも、コミュニケーションという壁に幅まれ、女性からは排除されていると指摘。「学生時代の同級生たちの多くは社会の上層で生きているので、“自分も本来はこんなはずじゃない”と現実的なプライドが高い。それなのにうまくいかない人生に深く悩むのか、自傷に走る傾向」とも分析しており、高学歴な中年童貞が生きづらくなる社会構造にも暗に触れている。

 また、いまやネット上のあちこちで見かける、男性による「女叩き」にも懐疑的な目を向ける必要があるだろう。その問題点を提示しているのが、システムエンジニアの36歳男性のエピソードだ。彼は自分の容姿に自信がなく、「女性に、絶対に受け入れてもらえないって自覚がある。もう傷つきつくした」とこぼしているが、中村氏が見た彼は「いわゆる“フツメン”」。繊細な性格と女性に関連するネガティブな思い出があいまって、女性嫌いになってしまったのだが、彼の場合はそれだけではなく、“同性愛者のフリ”をしているというのだ。

「本当は女性と話したり、普通に結婚したりしたい。けど、絶対に受け入れてもらえないから、男性性を捨てる自傷行為として性同一障害に逃げているんです」

 彼は「既成事実を作るために」男性とセックスをしたり、自らハッテン場と呼ばれる同性愛者の出会いの場に足を運んだりしている。ここにも大きくゆがんだ自己嫌悪を感じずにはいられない。

 この3人のケースを見た限りでも、「童貞」といえども、抱えている事情や感情がまったく異なる。一見、「女性嫌い」と言っていても実は誰よりも女性からの愛情を求めていたり、「二次元好き」と言ってもリアルな女性に憧れている。一方で、これらの3人とは異なり、「女性との会話は好きでも、性的な行動が苦痛でしょうがない」という男性もいるだろう。

 性という極めて個人的な問題が、社会問題として遡上に乗せられたとたん、「性的行動が苦痛な人」「本当は女性を求めている人」と細かな事情や背景が抜け落ちてしまっているのではないか。大きな数字だけを見て「絶食化」「セックス離れ」と騒ぐことは、“童貞”と一括りにされた人を傷つけ、社会から孤立させるだけなのではないかと危惧するのである。
(江崎理生)

最終更新:2017.12.13 09:34

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