ISILはどこか別の場所からイラクに入ってきたのではない。イラクで生まれたのだ。言っておくが、これは言葉の使い方の問題じゃない。
イスラム国誕生の背景には、アメリカのイラク攻撃がある。アメリカの一方的な攻撃によってフセイン体制が崩壊し、その混乱の中でバース党の残党とイスラム過激派が結びついてできあがった組織がISILなのだ。イスラム国を率いているとされるバグダディも元バース党員である。あのとき、ブッシュ政権が「大量破壊兵器を所有している」というデマに基づいてイラク攻撃をしなかったら、イスラム国は存在しなかった。そういう意味では、ブッシュ政権のイラク戦争を全面支持した日本も同等に責任を負っている。
安倍首相にはこの歴史認識がまったく欠落しているのだ。おそらく、この人物の頭の中には、どこかで生まれたカルト組織がイラクとシリアに侵入してきて、テロ活動を繰り広げている、そんな程度の考えしかないのだろう。
そういう意味では、安倍首相の中東歴訪での言動は確信犯ではない。中東に対する理解や知識がないからこそ、湯川さん、後藤さんが人質に取られているなか、ヒーロー気分で中東歴訪に出かけ、挑発的な台詞を口にすることができたのだ。
まったくこんな人物に外交を委ねていると思うとぞっとするが、安倍首相の怖さは無知だけでない。
実は、この日の『日曜討論』でも、安倍首相はその危険な本質をかいま見せている。それは集団的自衛権に話が及んだ際のことだ。キャスターが15年1月の世論調査では、集団的自衛権の法整備について「賛成25% 反対30%」だったと指摘。どのように国民に理解を求めて行くか、を問うたところ、安倍首相はこう答えたのである。
「前は、もう少し、反対の数のほうが多かっただろうと思います。それは、たとえば徴兵制度になるとかですね、戦争ができる国になる、という間違ったキャンペーンがありました。その影響があったのだろうと思いますが、どうやらそうではないということで、どちらともいえない、が多くなって、反対が少なくなってきたのだろうと思います。」
反対意見はすべてサヨクの捏造にしようとするところも相変わらずだが、それ以前に、これ、「反対が少なくなってきた」というのが真っ赤な嘘なのだ。昨年、同じNHKの世論調査で行った集団的自衛権の行使に関する調査結果は以下のようなものだった。
・4月 できるようにすべき 24% すべきでない 22% どちらとも言えない 45%
・5月 できるようにすべき 30% すべきでない 23% どちらとも言えない 37%
・6月 できるようにすべき 26% すべきでない 26% どちらとも言えない 41%
賛成はほとんど同じ。反対はむしろ、22%から30%と増えている。それを「反対が少なくなってきた」などと平気で強弁するのだから、開いた口がふさがらない。
だが、これが安倍首相のやり口なのである。無知と単純思考がもたらす失政を嘘でごまかし、事実を都合よくねじまげ、国民をさらに煽動する。この男を放置していたら、この国は必ず戦争に引きずり込まれるだろう。そうなってからでは遅いと思うのだが……。
(田部祥太)
最終更新:2017.12.13 09:22