だが、問題はその後だ。二審ではこれについて「真実性は証明されておらず、〈大川の全人格に対する社会的評価が控訴人幸福の科学の社会的評価に直結する〉」と“解釈”を逆転させ、文春側の主張を認めなかったのだ。真実性を証明できなかったのは、文春側の都合ではなく、あくまで一審を担当した裁判官の訴訟指揮にあったにもかかわらず。
しかし、こういった理不尽な判決は何も今回にかぎったことではない。メディア、とくに週刊誌に対する名誉毀損訴訟は、明らかに公平性をかいた異常な判決だらけなのだ。たとえば、この2〜3年の判決をざっとあげてみると──。
・日経新聞の社長と女性デスクとの不適切な関係を報じた「週刊文春」に対し、東京地裁が1210万円の支払い命令。東京高裁も地裁判決を支持。(東京高裁14年7月18日)
・長嶋一茂が父親の肖像権などの管理を巡り家族トラブルになっていると報じた「週刊文春」に対する訴訟で440万円の支払い命令(東京地裁14年4月18日)。
・幸福の科学に訴えられた「週刊新潮」に対して30万円の支払いを命令(東京地裁13年8月9日)。
・「週刊新潮」で2012年4月に掲載された「貴乃花親方が日常的に暴力を振るっており、妻の景子もとめなかった」との記事に関して、275万円の支払いを命令(東京地裁14年8月4日)
・民主党参院議員で元法相の小川敏夫がプライバシー侵害を訴えた訴訟で「週刊新潮」に220万円の支払い命令(東京地裁13年1月21日)
・吉本興行の漫才師・中田カウスに対する報道で、「週刊現代」に198万円の支払い命令(大阪高裁13年2月5日)
・前長崎県知事・金子原二郎の諫早湾開拓事業の不正を報じた「フライデー」に対し、220万円の支払い命令(東京地裁14年2月26日)
・プロボクサーの亀田興穀の不正疑惑を報じた「週刊ポスト」に300万円の支払い命令(東京地裁12年3月27日)
控訴や上告によって判決が確定していないもの、和解となる事案も多いが、これらの判決を見れば、メディア側が敗訴の山を築いていることがよくわかるだろう。しかも、これはたんにメディアが誤報を連発している結果ではない。訴訟を起こされれば、たとえ記事が真実であり、それを証明できても負ける。そんな状態が続いている。
いったい、この裁判所の姿勢の背景に何があるのか。「文春」の検証記事では元裁判官で、『絶望の裁判所』(講談社新書)などの著書もある瀬木比呂志氏が登場し、 「〇一年を境に(名誉毀損裁判をめぐる:筆者注)状況は一変。賠償額が一気に高騰した。そこには知られざる『政治からの圧力』があった」ことを指摘している。