抗がん剤についても近藤氏は強気の姿勢を崩さない。
「僕の主張は、すべての患者にあてはまることと受け取ってもらってかまわない。僕が、がん研究に費やした時間は約10万時間。それだけの勉強量で、何万本という論文を読んでも、抗がん剤で人を救えたという報告はない。これは効かないと断定してもいいでしょう」(「週刊朝日」13年6月21日号)。
たしかに、医療界が延命効果のない抗がん剤を患者に投与している現実はあり、近藤氏の指摘はある部分は正しい。しかし、一方で、近藤氏の告発した“がん診療ワールド”も進歩をしている。
抗がん剤が延命効果を上げているケースはたくさんあるし、QOLに寄与しているケースもある。転移したがんでも、抗がん剤で小さくした後、切除する時代になっている。
「例えば大腸がんの場合、しばしば肝臓への転移が見られますが、治癒の可能性があるから諦めてはいけません。最新の抗がん剤は手術不可能なものを手術可能にするほど、がんを短期間で縮小させ、コントロールできる。結果、東大での5年生存率は50%以上、手術関連死亡率は0%という成績です」(大場大・東大病院肝胆膵外科助教、「週刊新潮」14年4月3日号)。
また、高野利実・虎の門病院臨床腫瘍科部長は10年ほど前の近藤医師とのエピソードを語っている。
「近藤先生は壇上では“ハーセプチン(乳がんに使う抗がん剤)はダメだ”と言いつつ、懇親会の席では“別の抗がん剤との併用ではなく単剤ならやってもいいと思うよ”と話していたくらいです。そのうち、日常的に患者さんを診ることがなくなり、考えが極端な方向で凝り固まってしまったのでしょうか」(「週刊新潮」14年4月3日号)
近藤氏が医師中心のがん治療から患者のQOL、インフォームドコンセントの充実が必要と医療の転換を呼びかけたことの功績は大なのだが、自らの理論をいつしか無謬なものと勘違いしてしまったようだ。
もうひとつ、近藤の問題点は、患者が何の治療もせず放置した結果をきちんと出していないことだ。本当に多くの患者が転移のないまま生存しているのか、亡くなった患者も苦しんでいないのか、がデータとして明らかになっていないのだ。高野部長はこう指摘する。
「近藤先生は抗がん剤治療だけでなく、必要なケアもしないで、本当に患者を“放置”するわけですから、無責任です。緩和ケアまでご自身でやって、最期まで看取るというなら、先生のような考えがあってもいいと思いますが、実態はそうではない。経過の良かった150人のことを本にして発表していますが、その陰には悲劇的な死を遂げた何十倍もの人がいることを忘れないで欲しい」(「週刊新潮」14年4月3日号)