また、安倍首相は北朝鮮問題に絡めて集団的自衛権を説明したが、それもめちゃくちゃだという。安倍首相は、閣議決定の際の会見で、イラストを用いながら日本人の母子など在留邦人を救助したアメリカの船が攻撃されたときのために集団的自衛権が必要、という説明をしたが、佐藤によれは、この状態は日本の船が出せないということであり、「危機の末期」。すでにミサイルが飛んできたり、特殊部隊が上陸してきている可能性さえある。そうなれば個別的自衛権が適用され、集団的自衛権はそもそも必要がないというわけだ。
にもかかわらず、安倍首相が集団的自衛権にこだわるのはなぜか。その理由を佐藤はこう分析する。
〈佐藤 木戸御免で総理に会える人が、『おじいさま(岸信介)の思いですね』と言ったら、総理は、満面に笑みを浮かべ、『岡崎久彦元大使にも言われた』と答えたそうです〉
安倍首相にとって、集団的自衛権は政治家としての信念でも、国益のためでもなく、単なる尊敬すべきおじいちゃんへの思いだと分析するのだ。
安倍の掲げる「戦後レジームからの脱却」もアメリカからみれば「サンフランシスコ平和条約体制からの脱却」で、親米とは矛盾すると佐藤はいう。そして、こうした支離滅裂の典型としてあげるのが、北朝鮮拉致問題への対応だ。
〈佐藤 安倍政権は非常に近い視野しかもっていません。単細胞という批判もありますが、私に言わせれば、半細胞です(笑)。北朝鮮から拉致被害者を取り返せば、内閣支持率が上がるだろうと考える。安倍政権の日朝交渉は、それ以上でもそれ以下でもありません〉
これについては池上も同意して、交渉にこんな裏があることを指摘する。
〈池上 北朝鮮が再調査をすると言っていますが、本当は再調査なんか必要ないわけです。外国人なり、日本人に関しては、全部データがあるのですから。
日本側は妥協しているわけです。『とっくにわかってるだろ』と言ったら話が進まないから、『「再調査したら見つかりました、以前悪いやつが隠していたのが見つかりました」と弁解していいですよ』と逃げ道を与える〉
二人の分析で驚かされるのは、今回の日朝交渉には、アメリカがこれを潰そうと動いているという指摘だ。なぜなら北朝鮮への経済制裁が解除されれば、その金で北はアメリカに達する弾道ミサイルを作る可能性が大きい。アメリカは断じてそれを許したくないからだ。