メイにとって「最も操作しやすい」政治家こそ石原慎太郎だったのだ。
こうして石原は米国諜報機関の思惑通り、ヘリテージ財団で講演を行い、「尖閣の購入」を表明する。これは当然、中国の反感を買ったが、そのことは同時に、日中関係の緊張を望むアメリカ保守派にとって「予想以上の成果」をあげたという。
また、孫崎は石原の思惑についても、こう書いている。
「石原はいまだに国政の場での復帰を模索していた。それも首相としてである」「『自分が首相になるにせよ、息子(伸晃)が首相になるにせよ、米国の支援が必要だ』と思っている」
もちろん、本書は小説と銘打ったものでこれだけで「石原がアメリカに操られている」と断定するのは無理があるだろう。また、著者の孫崎はこれまで「総理の首がすげ替えられる背後にはアメリカの謀略があった」「原発再稼働など一見アメリカと無関係に見える問題も、深い影響力が働いている」と多くの事象に“アメリカの謀略”を主張する人物でもある。
そんな背景を考慮しつつも、しかし今回の『小説外務省 尖閣問題の正体』では、登場人物や事象も実際に起こったことがほぼ実名で書かれておりまた孫崎自身「尖閣問題をめぐる”真実”を書きました」と述べてもいる。そして何より、石原が最初に尖閣の購入をぶちあげた場がヘリテージ財団の講演だったというのはまぎれもない事実なのだ。
しかも、石原がアメリカのスパイに操られていようがいまいが、この政治家の危険性に変わりはない。
もともとタカ派的なスタンスで知られてきた石原だが、ここにきて戦争への欲望がより露骨になり、この夏には「週刊現代」(8月9日号)で、今の野望は何か、と聞かれて「支那(中国)と戦争して勝つこと」とまで口にした。こういう人物が安倍政権とドッキングして改憲に走る、なんてことのないよう願いたいものだが……。
(伊勢崎馨)
最終更新:2015.01.19 04:11