さらに、派遣会社が正社員として雇った労働者を派遣先に派遣するというが、実際には派遣会社が派遣先から派遣契約を切られた後も、その労働者を正社員として雇い続けることは難しい。結果として、派遣契約が終われば、仕事もなくなる。不安定さに変わりはない。
また、従来型の有期雇用派遣については個人単位で3年という派遣期間の制限は残すが、業務単位での期間制限は廃止する。簡単にいうと、3年ごとに部署さえ変えれば同じ会社内でも同じ派遣社員を半永続的に「使い回す」ことが可能になる。本来なら、それだけ必要とされる人材なら正社員として雇用しなければならないのにだ。
いずれの施策も「働き方の多様性」だとか「育児や介護との両立」などのメリットばかり強調されるが、実体は、安くて使い勝手の良い労働力を企業に送り込むための方便なのだ。
このサラリーマン奴隷化によって企業がいくら儲かるか? 労働総研の試算によると、なんと42兆円にも達するという。
まず、ホワイトカラーエグゼンプションで従来型の正社員から残業代を奪い取る。次に「無限定社員」としてついて来られない社員を「限定社員」化することで、差額の人件費を浮かせる。限定社員の業務の一部を派遣労働者に置き換えてさらに人件費を抑制する。派遣労働者の賃金も買い叩いて……と、これがアベノミクスの正体なのだ。
安倍政権がデタラメなのは、国民の生活を一変させるほどの重大事なのにきちんとした議論や手続きを踏まずに進めようとしていることだ。集団的自衛権における解釈改憲の手法と似ている。さすがにこれはマズイと気づいた労働法の専門家たちが『日本の雇用が危ない 安倍政権「労働規制緩和」批判』(旬報社)を緊急出版した。
この本の「はしがき」には、規制緩和がそのまま進められると「格差社会」が一層深刻化し、正社員も非正規労働者も働きがいのある人間らしい仕事からほど遠い労働と生活を強いられることになる、と恐ろしいことが指摘されている。
にもかかわらず労働者の反応は驚くほど鈍い。まともな国なら暴動が起きてもおかしくない事態だが、安倍政権の支持率も(落ちたとはいえ)相変わらず高い。
安倍首相はアベノミクスで雇用が増えたと盛んに宣伝しているが、サラリーマンの実質賃金は13カ月連続で減少している(厚労省発表7月速報値)。要は、企業にとって都合のいい“安い雇用”ばかりが増えているというわけだ。
サラリーマンの“奴隷化”は、知らぬ間に、しかも着実に進んでいるのである。
(野尻民夫)
最終更新:2015.01.19 04:56