「エボラが空中を移動できるという証拠は、あった。それは戦慄すべき事実だが、そこに一分の疑問もないかといえば、そうでもない。(略)健康そうに見えた二匹のサルが、空中を移動したと思われるエボラで死んだのだ」
「エボラとマールブルグを含んだエアロゾルをサルに吸わせることによって、彼らを感染させたことがあった。空中を移動するウイルスに晒されたサルは、全部が死んだ」
戦慄すべき記述だが、すでに20年前にこうしたことが指摘されていた。にもかかわらず、アメリカや欧米、そして日本を始めとする先進国の動きは鈍かったのだ。
これには興味深いレポートが存在する。雑誌「選択」(2014年10月号/選択出版)に掲載された「『エボラ蔓延』WHOの大罪」がそれだ。
記事によれば「エボラはあまりに強力なため、村単位で住民を全滅させると、それ以上感染が広がらないとみられてきた」。そのため遠いアフリカの地で起こっているエボラ感染に先進国は大きな危機感を抱いてこなかった。さらに利益至上主義の製薬会社もまた、金にならないアフリカでの感染症に対するワクチン開発に取り組まなかった。実際WHOのキーニー事務局長補はこう語ったという。
「(エボラには)経済的な力学が働かない」と。
アフリカの貧しい人々は、こうして先進国から見捨てられた。まるで全滅を待っているかのように。
だが現在、エボラはそんな先進国に復讐を始めたがごとく、浸食を開始した。もちろん日本も例外ではない。こうした中、製薬会社も本気でワクチン開発に着手しはじめた。日本の富士フィルムグループの富山化学工業が開発したインフルエンザ治療薬がエボラに効果があったとの報道もなされている。
先進国に危機が訪れたからこそのワクチン開発。あまりに皮肉なグローバル経済的論理だが、これをアフリカの人々が利用できる日が一刻も早く訪れることを願うしかない。
(林 グンマ)
最終更新:2015.01.19 05:00