「大きく咳き込み、袋の中に何かを吐きだす。袋はたちまちふくれあがる。(略)唇に何かしら赤い粘ついたものが付着しているのを周囲の人間に見られる。その赤い粘ついたものには、彼がコーヒーの豆でも噛んでいたかのように、黒い斑点も混じっている(略)乗り物酔い用の袋は、“黒色吐物”と呼ばれるものでいっぱいにふくれあがる。(略)それは出血にほかならず、さながら食肉処理場のような臭気を伴う」
モネはこれを接客係に手渡した。この時、モネの体は、まさに破壊されようとしていたのだ。血管の中に血栓ができ、肝臓、腎臓、肺、両手首、頭の中など至るところで血の流れを止める。腸筋肉も死にはじめ、弛緩する。
さらに恐ろしいことに、脳の障害により人格も失われる。感情や精神の活力が消え、ロボットのようになるのだ。ときに周囲に敵意をむき出しにし、体に触られることを嫌がることもあるという。
さらにモネは鼻血を出し始める。
「両方の鼻孔から流れ落ちる血は、色鮮やかな動脈血で、彼のはや顎の上に滴り落ちる。この血は凝固せずに流れつづける。(略)血は依然として固まらず、タオルは血でぐっしょりと濡れそぼってしまう」
血を流しながらモネはタクシーに乗り病院へたどり着いた。しかし待合室でウイルスは爆発した。目眩と脱力感、背筋がぐったりとして感覚がなくなる。
「がくっと前にのめり、膝に顔をのせると同時に、信じられないほど大量の血を胃から吐きだして、苦しげな呻き声と共に床にまき散らす。(略)唯一、聞こえるのは、失神しながらも喉を詰まらせて吐き続ける音だ。次いで、シーツを真っ二つに引き裂いたような音がする。それは肛門の括約筋がひらいて、大量の血を排出した音だ。その血には腸の内層も混じっている。彼は自分の内蔵まで壊死させたのだ」
まさに恐怖の中にある“死”。しかも後に判明するのだが、モネに取り付いたウイルスはマールブルグ・ウイルス(おとなしい弟)と呼ばれるものだった。致死率は25%。そこに三兄弟ウイルスといわれるさらに兇悪なエボラ・スーダン、そして致死率90%というエボラ・ザイールが加わっていくのだ。その種類は現在では5種確認されているが、そのなかでも“おとなしい”ウイルスでも以上のような破滅的症状を引き起こすのだ。
さらに本書の中では恐ろしい“予言”が記されている。現在、エボラは空気感染はないといわれている。が、しかし本書ではその可能性さえ指摘されているのだ。